ワークフローシステムとは|中小企業の申請・承認を止めない導入の進め方
この記事のポイント
ワークフローシステムは、申請と承認の流れを決まった順路で電子的に回す仕組み。入れれば速くなるのではなく、承認の順路と例外の扱いを先に決められた業務から順に載せていくと、止まりにくい。
ワークフローシステムとは、申請から承認、その結果の記録までを、あらかじめ決めた順路に沿って電子的に回す仕組みのことだ。稟議、経費精算、休暇申請、発注依頼のように「誰かが出して、誰かが承認する」形をとる業務が対象になる。
導入の相談を受けるとき、私たちが最初に確認するのはツールの機能ではなく、いま承認が止まる場所である。「回覧が遅い」という困りごとの原因が、紙で運んでいることではなく、承認者が多すぎることや、誰が承認すべきか決まっていないことにある場合、電子化しても止まる場所は変わらない。順路が曖昧なまま載せると、曖昧なまま速く回るだけになる。
ワークフローシステムで変わること、変わらないこと
メールや紙の回覧と比べて、はっきり変わるのは次の3点だ。
今どこで止まっているかが見える:申請者が「あの件どうなりましたか」と聞いて回る必要がなくなる。滞留している案件と、滞留させている人が一覧で分かる。
承認した事実が記録として残る:誰がいつ承認したかが自動で残る。後から「聞いていない」が起きにくくなり、監査や税務の場面で経緯を示しやすい。
次に渡す相手を人が判断しなくてよくなる:金額や部署に応じた順路をあらかじめ設定しておけば、申請者が承認ルートを調べる手間がなくなる。
一方で、変わらないことも押さえておきたい。承認の順路そのものを、システムが考えてくれるわけではない。承認者が判断に迷って手が止まるのなら、止まる理由は画面ではなく、判断に必要な情報が申請書に載っていないことにある。承認が形骸化していて誰も中身を見ていないのなら、電子化すると押印の手間が減るぶん、さらに素通りしやすくなる。
つまりワークフローシステムは、決まっている順路を速く正確に回すのは得意だが、決まっていない順路を決めてはくれない。決めるのは導入する側の仕事になる。
導入がうまくいかないときの3つのパターン
相談を受ける中で、繰り返し見かける形がある。
紙の様式をそのまま画面にする
最も多いのがこれだ。紙の申請書は「一枚に収める」という制約と、「後から手書きで補える」という自由さの上に成り立っている。記入欄が曖昧でも、備考欄で例外を吸収できていた。電子化すると備考での融通が効かなくなり、決められた欄に収まらない申請が現場で滞る。
様式を移す前に、各項目について「誰が入力するのか」「後工程の誰がその値を使うのか」を確認したい。使われていない欄は落としてよい。判断に必要な項目だけを残したほうが、申請する側の手間も、承認する側の負担も減る。
承認者を減らさないまま載せる
紙の時代に増えていった承認印を、そのまま承認ステップとして再現してしまう形だ。ステップが増えるほど、一人あたりの当事者意識は薄れ、滞留する箇所も増える。導入は、承認者を見直す数少ない機会でもある。「この人は何を判断しているのか」を一人ずつ言葉にしてみて、答えられない承認は、確認の通知に置き換えられないかを検討したい。
例外の扱いを決めずに始める
承認者が不在のとき、金額が想定を超えたとき、申請を出した後で内容が変わったとき。こうした例外は必ず起きる。ここを決めずに始めると、現場は「システムだと通らないので、いつもの口頭で」に戻る。いったん抜け道ができると、記録が残らない申請が並走して、導入前より状況が分かりにくくなる。
導入前に決めておく5つのこと
ツールを比較する前に、対象の業務ごとに次を紙一枚で決めておくと、選定も設定も進めやすくなる。
| 決めること | 具体的に書き出す内容 |
|---|---|
| 対象業務 | どの申請を載せるか。おおよその件数と、今かかっている日数。 |
| 様式の項目 | 承認者が判断するために必要な項目だけに絞る。誰が入力し、誰が使うかを項目ごとに書く。 |
| 承認の順路 | 誰が何を判断するか。金額や部署で順路が変わるなら、その分かれ目の条件。 |
| 期限と代理 | 何日置かれたら催促するか。承認者が不在のとき誰が代わるか。差し戻しは誰に戻すか。 |
| 記録の残し方 | 承認後のデータをどこに残すか。どのくらいの期間、何で検索できる必要があるか。 |
この5つのうち、後から変えるのが一番つらいのは「記録の残し方」だ。運用を始めてから保存場所や検索の条件を変えると、それまでの申請だけ別の場所に残ることになる。ここは最初に決めておきたい。
対象業務の洗い出しから始めたい場合は、業務棚卸しの進め方もあわせて読んでほしい。
どの業務から載せるかの選び方
一度にすべてを移そうとすると、様式の作り直しが重なって止まる。まず1つの業務で運用を回し、現場が操作に慣れてから広げるほうが早い。順番の判断は、次の観点で分けるとつけやすい。
| 見る観点 | 先に載せる業務 | 後に回す業務 |
|---|---|---|
| 関わる範囲 | 社内で完結する | 取引先とやり取りする |
| 順路の明確さ | 今もはっきり決まっている | 案件ごとに承認者が変わる |
| 件数 | 毎月ある程度まとまって発生する | 年に数回しか出ない |
| 制度対応 | 社内規程だけで完結する | 保存要件や法令の確認が必要 |
この基準だと、休暇申請や少額の購買依頼、社内稟議あたりが先に来ることが多い。逆に、請求書や契約書を含む流れは、電子帳簿保存法の保存要件を確認したうえで設計する必要があるため、社内で一度成功体験を作ってから着手するほうが無理がない。
出典・一次情報
- 電子帳簿保存法関係(国税庁) — 電子帳簿保存・スキャナ保存・電子取引の制度別の要件、一問一答、JIIMA認証リストが掲載されている。
制度は改定されます。適用の可否や要件の詳細は、公表元および顧問税理士にご確認ください。
紙の書類全体をどう減らしていくかは、中小企業のペーパーレス化で段階を追って整理している。
既存の仕組みとの接続をどこまでやるか
経費精算を載せると会計ソフトへ、休暇申請を載せると勤怠管理へ、発注依頼を載せると販売管理へ、それぞれ数字を渡す話が出てくる。ここで最初から全部をつなごうとすると、導入そのものが止まりやすい。
判断の目安は、転記の頻度と、間違えたときの影響だ。毎月まとまった件数を転記していて、間違えると支払や給与に響くなら、つなぐ価値がある。年に数回で、目視で確認できる量なら、当面は手作業のままでも困らない。つなぐと決めた場合も、どちらが正となるデータを持つのかを先に決めておく。両方で直せる状態にすると、どちらが正しいか分からなくなる。
なお、承認済みのデータを別のシステムに渡すときは、渡す項目と渡すタイミングを文書に残しておきたい。担当者が替わったときに、この2つが分からないと調査から始めることになる。バックオフィス全体の順番づけは、バックオフィス自動化のロードマップで整理している。
費用を見積もるときに抜けやすい項目
提示された利用料だけで判断すると、後から想定外が出やすい。金額は製品や規模で大きく変わるため、ここでは項目の立て方だけを挙げる。自社の条件で、実際の見積もりに当てて確認してほしい。
・利用料:課金の単位(利用者数か、申請件数か)と、承認だけする人も対象になるか
・初期設定:様式と承認順路を最初に作る作業を、自社でやるか依頼するか
・様式の改訂:組織変更や規程改定のたびに直す作業。誰が直せる想定か
・データの持ち出し:解約時に、過去の申請と承認記録をどの形式で取り出せるか
・問い合わせ対応:使い方の質問を社内の誰が受けるか。その人の時間も費用にあたる
このうち見落とされやすいのが、様式の改訂と問い合わせ対応だ。どちらも導入時ではなく、運用が始まってから継続的に発生する。設定を触れる人が社内に一人もいない状態で始めると、承認者が一人異動しただけで外部への依頼が必要になる。少なくとも一人は、様式と順路を自分で直せる人を用意しておきたい。
運用に乗せてから見る指標
導入後は、申請から承認完了までにかかった日数と、どのステップで滞留しているかを定期的に見る。ワークフローシステムを入れる利点の一つは、この2つが自動的に取れるようになることだ。
滞留が特定の人に偏っているなら、その人の負荷か、判断に必要な情報が足りていないかのどちらかである。前者なら代理承認や権限委譲を、後者なら様式の項目を見直す。差し戻しが多い様式も同じで、記入例が足りないのか、そもそも項目の意味が伝わっていないのかを、申請した人に聞くのが早い。
数字だけでなく、「紙に戻っている申請がないか」も確認したい。抜け道が残っていると、記録の一部だけが別の場所にあるという、導入前より厄介な状態になる。見つけたら、その申請が通らなかった理由を聞いて、順路か様式のほうを直す。
まとめ
ワークフローシステムは、決まっている順路を速く正確に回し、その記録を残す仕組みだ。順路が決まっていない業務に載せても、決まらないまま速く回るだけになる。
だから、対象業務・様式の項目・承認の順路・期限と代理・記録の残し方の5つを先に決め、社内で完結する業務から1つずつ載せていく。この順番なら、途中で立ち止まっても手戻りが小さくて済む。
よくある質問
ワークフローシステムとは何ですか?
申請から承認、その結果の記録までを、あらかじめ決めた順路に沿って電子的に回す仕組みのこと。稟議、経費精算、休暇申請、発注依頼のように「誰かが出して、誰かが承認する」形の業務が対象になる。メールや紙でのやり取りと違うのは、今どこで止まっているかが見えること、承認した事実と日時が記録として残ること、次に渡す相手を人が判断しなくてよくなることの3点だ。逆に、承認の順路そのものを考えてくれるわけではないので、順路が曖昧なまま入れると曖昧なまま速くなるだけになる。
紙の申請書をそのまま電子化すればいいのですか?
そのまま移すと、かえって使いにくくなることが多い。紙の様式は「一枚に収める」「後から手書きで補える」という制約と自由さの上に成り立っていて、記入欄が曖昧だったり、備考欄で例外を吸収していたりする。電子化すると備考欄での融通が効かなくなるため、まず様式の各項目について「誰が入力するのか」「後工程の誰がその値を使うのか」を確認し、使われていない欄は落とす。判断に必要な項目だけを残したほうが、申請する側の手間も承認する側の負担も減る。
最初にどの業務から電子化するとよいですか?
社内で完結し、件数がある程度あり、承認の順路が今もはっきりしている業務から始めるとよい。休暇申請や経費精算、少額の購買依頼などが該当しやすい。逆に、取引先とやり取りする書類や、金額や条件によって承認者が変わる業務は、制度対応や例外の設計が必要になるため後に回す。1つの業務で運用が回り、現場が操作に慣れてから対象を広げると、様式の作り直しが減る。
申請と承認の流れを整理したい方へ
SalesDockは、経営・営業・業務・データをつなぎ、現場で回る事業基盤づくりを支援している。どの業務から仕組みに載せるべきか迷う場合は、まず現状を診断してみてほしい。
無料で診断する →泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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