社会保険 適用拡大はいつから?企業規模要件の撤廃スケジュールと備え
自社の順番がいつ来るか、そこから逆算して人件費を組む
この記事のポイント
社会保険の企業規模要件は10年かけて段階的に撤廃される。36〜50人が2027年10月、21〜35人が2029年10月、11〜20人が2032年10月、1〜10人が2035年10月。賃金要件(いわゆる106万円の壁)は公布から3年以内に撤廃され、残るのは「週20時間以上」という労働時間だけになる。自社の順番が来る時期は決まっているので、慌てる必要はないが、シフトと賃金の設計を先に整える猶予期間として使うべき期間だ。
パート・アルバイトの社会保険加入をめぐる話は、これまで「51人以上の企業の問題」として扱われてきた。年金制度改正法により、この線引きが10年かけて消える。従業員10人以下の会社まで最終的には対象になる。ただし、時期は明確に決まっており、今日明日の話ではない。この記事では厚生労働省の資料にもとづいて、自社の順番がいつ来るのか、その間に何を整えておくべきかを整理する。
根拠となる法律—年金制度改正法
根拠は「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」である。厚生労働省の「年金制度改正法が成立しました」のページによれば、この法律案は令和7年(2025年)5月16日に第217回通常国会に提出され、衆議院で修正のうえ、6月13日に成立した。
改正の柱は、社会保険の加入対象の拡大、在職老齢年金の見直し、遺族年金の見直し、保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引上げ、その他の見直しの5つ。中小企業の経営に最も直接効くのは1つめだ。
企業規模要件の撤廃スケジュール
厚生労働省の説明資料(概要版)の2ページに施行日の一覧図があり、3ページに「企業規模要件の撤廃」として「10年かけて段階的に対象の企業を拡大します」と明記されている。対象になる時期は次のとおり。
| 従業員数 | 対象になる時期 | 準備できる期間(2026年8月時点) |
|---|---|---|
| 51人以上 | 現在の対象 | 対応済みであるべき |
| 36〜50人 | 2027年10月から | 約1年2ヶ月 |
| 21〜35人 | 2029年10月から | 約3年2ヶ月 |
| 11〜20人 | 2032年10月から | 約6年2ヶ月 |
| 1〜10人 | 2035年10月から | 約9年2ヶ月 |
出典: 厚生労働省「年金制度改正の全体像」(説明資料 概要版)p.2 施行日の一覧図、p.3「企業規模要件の撤廃」。準備できる期間は本記事で算出
資料には「上記の時期を待たずとも労使合意に基づき加入することも可能にします」という注記がある。つまり、順番が来る前に前倒しで適用する選択もある。採用競争の観点でこれを先に打つ会社が出てくる可能性はあるが、コストが先に立つ判断なので、後述の支援措置とあわせて検討する話になる。
あわせて、個人事業所についての拡大もある。常時5人以上の者を使用する個人事業所のうち、法律で定める17業種は現行どおり対象、それ以外の業種(農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業等)は対象外から対象へ変わり、2029年10月からとされている。ただし「2029年10月時点で既に存在している事業所は当分の間、対象外とします」という注記が付く。5人未満の個人事業所は現行どおり対象外である。
支援事例まとめ
実際の支援を1件1ページで、課題/打ち手/Before・After/どんな会社に向くかの順に整理しました。相談・検証の段階にとどまるものは実績と分けて記載しています
資料を無料でダウンロード賃金要件の撤廃—残るのは「週20時間以上」だけ
現行の短時間労働者の加入要件は、週の勤務が20時間以上で、賃金が月額8.8万円以上、かつ51人以上の企業という組み合わせだ。改正では、このうち賃金要件と企業規模要件の両方が外れる。資料には「加入要件がシンプルに!」という見出しのもとで「週の勤務が20時間以上」だけが残る図が示され、学生は対象外との注記が付いている。
賃金要件の撤廃について、資料は「いわゆる年収106万円の壁がなくなります」「全国の最低賃金の引上げの状況を見極めて、3年以内に廃止します」と記載している。施行日は2ページの図で「公布から3年以内の政令で定める日〜」とされている。
ここは実務的に重要だ。最低賃金が上がり続けている状況では、週20時間働けば月額8.8万円を自然に超えていく。厚生労働省の別資料も「最低賃金の上昇により、週20時間以上働く方は、自動的に社会保険の加入要件を満たすため、賃金要件を意識する必要がなくなります」というタイトルで説明している。つまり、賃金要件の撤廃を待たずとも、実質的には「週20時間」がシフト設計の唯一の分岐点になる方向へ動く。
3年間の負担軽減措置がある
新たに加入対象になる従業員には、負担を段階的にする仕組みが用意される。資料5ページには「企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象となる短時間労働者に対し、3年間事業主の追加負担により、社会保険料の負担を軽減できる特例的な措置を実施します」「事業主が追加負担した保険料について、その全額を制度全体で支援します」と記載されている。
| 月額賃金(標準報酬) | 年額換算 | 労働者の負担 |
|---|---|---|
| 8.8万円 | 106万円 | 本来の負担の25/50 |
| 9.8万円 | 118万円 | 本来の負担の30/50 |
| 10.4万円 | 125万円 | 本来の負担の36/50 |
| 11万円 | 132万円 | 本来の負担の41/50 |
| 11.8万円 | 142万円 | 本来の負担の45/50 |
| 12.6万円 | 151万円 | 本来の負担の48/50 |
| 13.4万円 | 161万円 | 本来の負担の50/50 |
出典: 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大③」(説明資料 概要版 p.5)。3年目は軽減割合を半減。労使合意に基づき任意に適用する場合でも活用できるようにするとされている
同ページには、事業主向けの支援として「社会保険の加入にあたり労働者の収入を増加させる事業主への支援、加入拡大に関する事務の支援や生産性向上等に資する支援を検討しています」との記載もある。検討段階の表現なので、内容が固まるのを待つ必要がある。
なお、加入拡大の効果として、資料6ページには「約90万人の労働者が社会保険(厚生年金・健康保険)に加入し、将来の年金の増額などのメリットを受けられます」と記載されている。同ページには年収106万円の例で会社負担・本人負担がそれぞれ月12,500円になるという試算図も載っている。自社の人件費への影響を概算するときの目安として使える。
同時に動く他の改正
同じ法律には、経営者本人や高齢の従業員に関係する改正も含まれている。混ぜて理解すると混乱するので、時期だけ整理しておく。
| 改正 | 内容 | 時期 |
|---|---|---|
| 在職老齢年金の見直し | 支給停止の基準額を月50万円から62万円へ引上げ(金額は2024年度価格) | 2026年4月から |
| 賃金の上限の引上げ | 上限65万円→68万円/68万円→71万円/71万円→75万円と段階的に引上げ | 2027年9月/2028年9月/2029年9月 |
| 遺族厚生年金の男女差解消 | 20年かけて段階的に解消 | 2028年4月から |
| 子の加算 | こどもを養育する年金受給者の加算額拡充、対象となる方の範囲拡大 | 2028年4月から |
出典: 厚生労働省「年金制度改正の施行日」(説明資料 概要版 p.2)、「在職老齢年金制度の見直し」(同 p.7)
在職老齢年金の基準額引上げは2026年4月からすでに動いている。年金を受け取りながら働いている社員・役員がいる会社では、働ける時間の上限が実質的に広がっている。人手不足の緩和策として、まずここを確認するのが早い。
で、自社は何をいつまでにやるのか
自社の順番が来る年月は決まっている。やるべきことは、その日までに「週20時間の前後にどれだけの人がいるか」を把握できる状態を作ることだ。
| 順番 | やること | 出したい数字 |
|---|---|---|
| 1 | 自社の従業員数がどの区分に入るか確認する | 対象になる年月 |
| 2 | パート・アルバイトの週あたり実労働時間を1人ずつ出す | 週20時間以上/未満の人数 |
| 3 | 週20時間以上の人が全員加入した場合の会社負担を概算する | 年間の追加人件費 |
| 4 | シフトを減らして20時間未満に寄せる案と、加入前提で単価を上げる案の両方を試算する | 必要人数と採用難度の差 |
| 5 | 3年間の負担軽減措置の適用条件を、対象時期が近づいたら最新情報で確認する | 従業員に説明できる負担額 |
実際に手が止まるのは2である。週あたり実労働時間を1人ずつ出せる会社は意外と少ない。タイムカードや勤怠アプリに打刻はあっても、「この人は先月、週何時間だったか」を人単位・週単位で並べたものが出てこない。月合計しか出ない設定になっていることが多い。ここが出ないと、3以降の試算がすべて感覚論になる。
そしてこの数字は、社会保険の話とは別にも効く。週20時間の前後に人が集中しているなら、それは「20時間で切るように調整されてきたシフト」ということだ。制度が変われば、その調整の意味が消える。シフトを組み直すなら、どの時間帯に何人必要かという需要側のデータが要る。制度対応の期限より先に、この数字を取れる状態を作るほうが実務的な価値が大きい。
人件費の上昇圧力は最低賃金の側からも来る。両方をまとめて見る場合は最低賃金 2026年の目安は?引上げ額54〜56円と中小企業がやることとあわせて読んでほしい。
確認できなかったこと
法律の公布日と法律番号は、厚生労働省の「年金制度改正法が成立しました」のページからは確認できなかった(成立日の令和7年6月13日は確認できた)。賃金要件の撤廃時期は「公布から3年以内の政令で定める日」とされており、本記事作成時点で具体的な日付は確認できていない。政令が出るまで確定しないため、日付を前提にした計画は立てないこと。
また、従業員数のカウント方法(どの雇用形態を含めるか、複数事業所をどう合算するか)は本記事では扱っていない。自社が「36〜50人」なのか「51人以上」なのかの判定は結果に直結するので、日本年金機構または年金事務所に確認してほしい。3年間の負担軽減措置についても、資料に「事業主への支援」として記載されている部分は「検討しています」という表現であり、内容は確定していない。
出典
- 厚生労働省「年金制度改正法」説明資料(概要版)(p.1 主な改正内容/p.2 施行日の一覧図/p.3 企業規模要件・賃金要件の撤廃/p.4 個人事業所の適用対象の拡大/p.5 短時間労働者への支援・負担割合の表/p.6 加入拡大の効果 約90万人/p.7 在職老齢年金 月50万円→62万円)
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001537487.pdf - 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」(法律の正式名称、2025年5月16日提出・6月13日成立)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html - 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」(加入要件の解説)
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/ - 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00021.html
よくある質問
社会保険の企業規模要件はいつ撤廃されるのですか?
厚生労働省の年金制度改正法の説明資料では、企業規模要件を10年かけて段階的に撤廃するとされており、従業員36〜50人の企業は2027年10月から、21〜35人の企業は2029年10月から、11〜20人の企業は2032年10月から、1〜10人の企業は2035年10月から対象になります。現在の対象は51人以上の企業です。なお、上記の時期を待たずとも労使合意に基づいて加入することも可能とされています。
いわゆる106万円の壁はどうなりますか?
厚生労働省の資料では、賃金要件の撤廃により「いわゆる年収106万円の壁がなくなります」とされています。撤廃の時期は「全国の最低賃金の引上げの状況を見極めて、3年以内に廃止します」とされ、施行日は公布から3年以内の政令で定める日です。撤廃後は、週の勤務が20時間以上という労働時間だけが短時間労働者の加入要件になります(学生は対象外)。
新たに加入対象になる従業員の保険料負担はどうなりますか?
企業規模要件の見直しなどにより新たに加入対象となる短時間労働者に対し、3年間、事業主の追加負担により社会保険料の負担を軽減できる特例的な措置が実施されます。事業主が追加負担した保険料については、その全額を制度全体で支援するとされています。この支援措置は2026年10月から始まる予定として資料の施行スケジュールに示されており、労使合意に基づき任意に適用する場合でも活用できるようにするとされています。