要件定義をAIで進める方法|コードの前に、誰が・何で・どのデータとつながるかを決める5ステップとプロンプト例
AIにコードを書かせる前に、AIに質問させて、決めることを1枚にする
執筆:泉 款太(株式会社SalesDock 代表取締役)累計40社以上の中小企業を支援
結論
任せるのは質問と整理、決めるのは人
要件定義をAIで進めるときは、AIに「要件を書いて」と頼むのではなく、AIに質問を出させ、その答えを人が決めて1枚にまとめます。決めたことを渡してからコードを書かせると、作り始めたあとに「誰が使うか」「どのデータとつながるか」を直す手戻りを減らしやすくなります。
- ①AIに任せるのは、聞き取り項目の洗い出しと、話した内容の整理。
- ②目的・責任者・精度の水準のような「決めること」は、人が決める。
- ③「要件を書いて」ではなく「質問だけ出して」と頼み、AIに推測で埋めさせない。
- ④決めたことは、使う人・データ・正とする場所・OKの条件を含む1枚の要件メモにする。
- ⑤メモを渡してからコードを書かせ、未決項目の数と手戻りの回数で効果を測る。
AIにアプリを作らせる場面では、コードの書き方より前に、何を作るかが決まっていないことで止まります。決めずに始めると、動くものはできても、直すほど別の所が壊れる「修正の沼」にはまりがちです。
この記事では、中小企業の非エンジニアが業務アプリを作る場面を前提に、要件定義でAIに任せることと人が決めることの分け方、AIに質問させる5ステップ、そのまま使えるプロンプトと要件メモの表を説明します。
要件定義でAIに任せてよいこと、人が決めること
要件定義でAIに任せてよいのは、聞き取り項目の洗い出し、話した内容の整理、文書の下書き、曖昧な言い回しの指摘です。人が決めるのは、何のために作るか、誰が最終判断するか、どこまでの精度で足りるかです。AIは業務の事情を知らないので、決めることを任せると、もっともらしい推測で埋めることがあります。
| 作業 | 担当 | 理由・やり方 |
|---|---|---|
| 業務の聞き取り項目の洗い出し | AIに任せる | 抜けやすい項目を質問の形で並べさせる |
| 話した内容の整理・文書の下書き | AIに任せる | 箇条書きのメモを、表や文章の形に整えさせる |
| 矛盾・曖昧な言い回しの指摘 | AIに任せる | 「早く」「適宜」のような決まっていない言葉を拾わせる |
| 何のために作るか、何を作らないか | 人が決める | AIは業務の事情を知らないので、推測で埋めることがある |
| 誰が使い、誰が最終判断するか | 人が決める | 責任の所在は、会社の中でしか決められない |
| どこまでの精度・速さで足りるか | 人が決める | 使い方によって要る水準が変わる |
人が要件を書く手順そのもの(決定者を先に決める、未決項目の扱いなど)は要件定義の進め方で説明しています。この記事は、そこにAIをどう組み込むかに絞ります。
AIで要件定義を進める5ステップ
AIで要件定義を進める流れは、①目的と使う人を人が書く、②AIに質問だけ出させる、③質問に人が答えて決める、④AIに1枚の要件メモへ整えさせる、⑤そのメモを渡してコードを書かせる、の5つです。人が書く・決める所と、AIが質問・整理する所を交互に置くのが要点です。
ステップ1:目的と使う人を、人が書く
最初に、何の手間をどれだけ減らしたいか、誰が使うかを数行で書きます。目的と使う人が空欄のままAIに要件を頼むと、AIは一般的なアプリを想像して要件を作ることがあります。書く内容は、いまの手作業の手順、1回あたりの時間、使う人の役割の3つで足ります。
ステップ2:AIに「質問だけ」を出させる
次に、AIに質問だけを出させます。「要件をまとめて」と頼むと、AIが足りない情報を推測で埋めて、完成したように見える文書を返すことがあるためです。質問と整理は、ChatGPTやClaudeのような会話型のAIで足ります。コードを書かせる段階(ステップ5)で、Claude Codeのようにファイルを読めるAIに替えます。次の文面を、ステップ1で書いたメモと一緒に貼ります。
あなたは業務アプリの要件定義を手伝う聞き手です。 下のメモを読み、足りない情報を質問してください。 ・答えを推測して書き込まないでください。質問だけを出してください ・「誰が使うか」「どのデータとつながるか」「どこを正とするか」 「作らないこと」「できたと言える条件」の5点が抜けていないか見てください ・質問は重要な順に10個までにしてください [ここに、目的・いまの手作業・使う人のメモを貼る]
ステップ3:質問に人が答えて、決める
AIが出した質問に、人が一つずつ答えます。ここで「決められない」ものが出てきます。要件の質問に答えを決められないときは、無理に答えず、要件メモの「未決項目」に、決める人と期限を書いて残します。未決項目を空欄のままコードを書かせ始めないことが、手戻りを減らす条件です。
質問を1人で決めかねるときは、現場の担当者と責任者に分けて聞きます。聞く場と決める場の分け方は要件定義の進め方にあります。
ステップ4:AIに1枚の要件メモへ整えさせる
答えがそろったら、AIに1枚の表へ整えさせます。要件メモは、目的・誰が使うか・何で使うか・どのデータとつながるか・どこを正とするか・作らないこと・OKの条件・未決項目の8項目を1枚の表にします。各項目を自社の内容で埋めれば、そのままAIに渡せます。次の表の記入例は、不動産会社の追客記録アプリを想定したものです。
| 項目 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|
| 目的 | 何の手間を、どれだけ減らすか | 追客の記録の転記を、週に2時間から30分に減らす |
| 誰が使うか | 役割ごとに、見る・直す・承認する項目 | 営業は自分の案件だけ直せる。部長は全員分を見られる |
| 何で使うか | スマホかパソコンか、入力するタイミング | 内見の直後にスマホで入力する |
| どのデータとつながるか | 箱(顧客・物件など)と、箱どうしの関係 | 顧客1人に、問い合わせは複数。物件は問い合わせに紐づく |
| どこを正とするか | Excelとアプリで同じ情報があるときの正しい値 | 顧客の連絡先は、アプリの値を正とする |
| 作らないこと | 今回やらないと決めた範囲 | 請求書の発行は今回は作らない |
| OKの条件 | できたと言える状態(受け入れ条件) | 実際の10件を入れて、手作業と同じ一覧が出る |
| 未決項目 | まだ決まっていないことと、決める人・期限 | 過去分の移行範囲:部長が来週決める |
AIに表へ整えさせるときは、次の文面を使います。
先ほどの質問への私の回答をもとに、次の8項目で1枚の要件メモにしてください。 項目:目的/誰が使うか/何で使うか/どのデータとつながるか/ どこを正とするか/作らないこと/OKの条件/未決項目 ・回答に書いていないことは、推測で埋めず「未決項目」に入れてください ・未決の項目は、決める人と期限を空欄で残してください ・表の形で、1枚に収めてください [ここに、質問への回答を貼る]
「どのデータとつながるか」の欄は、箱と線の図(ER図)にすると、関係の間違いに気づきやすくなります。AIに下書きさせる手順はER図をAIで作成する方法、図の読み方はER図の書き方で説明しています。「OKの条件」の決め方は受け入れ確認の進め方が参考になります。
ステップ5:メモを渡してから、コードを書かせる
要件メモができてから、初めてAIにコードを書かせます。メモはファイルとして保存し、最初の依頼で「このメモを読んでから始めてください」と渡します。Claude Codeのようにファイルを読めるAIなら、会話のたびに前提を言い直さずに済みます。まず画面を1つだけ作らせ、実際の業務のデータで試してから次へ進みます。
始め方の詳しい手順とプロンプト例はバイブコーディングの始め方に、メモを正として進める考え方は仕様駆動開発の記事にあります。
決める水準は、用途で変わる
要件の重さは、そのアプリを誰に見せるかで変わります。AIに質問させる前に、まず「結果を誰が見るか」を人が決めると、AIの質問も要件も軽くなる場合があります。
買取再販の会社で賃料査定の自動化を検討したとき、精度の話が長引きました。そこで「この査定、お客様に見せますか」と聞くと、見せない、という答えでした。社内の判断材料にとどまるなら、お客様に説明できる水準の根拠は要らず、どこまでの精度で足りるかを社内で決めれば済みます。使い方は、結果を誰が見るかを先に決め、そのうえでAIに「見る人が社内の担当者だけの前提で、足りない情報を質問してください」と頼むことです。見る人が違えば、AIが出す質問の重さも変わります。
ほかにも、要件を機能の一覧から決め始めて、業務の流れとずれた例があります。
- 商流に合わない:案件管理ツールが使われなくなる理由を聞くと、機能の不足ではなく、自社の商流に合っていなかったことが原因になる場合があります。実際の流れを先に書き出すと、要件が業務からずれにくくなります。進め方は業務棚卸しのやり方で紹介しています。
- 画面より先に業務フロー:不動産会社の案件管理で、カンバン型のデモを見せたところ、画面への要望が先に出そうになりました。先に社内の登場人物と業務フローを整理し、そのうえで優先順位を決めることで合意しています(進行中で、成果はまだ出ていません)。
AI駆動開発で、要件定義が先に要る理由
AI駆動開発では、AIがコードを速く書けるぶん、決まっていない前提のまま作り始めても、動くものができてしまいます。誰が使い、どのデータとつながるかが違っていれば、できたものを作り直すことになります。要件定義は、AIに書かせる前に人が決めておく部分で、AI駆動開発の最初の工程です。
開発会社に頼むときも、生成AIで要件メモを作ってから渡す
システム開発を外部の開発会社に頼む場合も、生成AIで要件を整理してから渡せます。手順は5ステップのステップ1〜4と同じで、AIに質問を出させ、人が答えて決め、1枚の要件メモにします。そのメモを依頼時に渡すと、開発会社との最初の打ち合わせで、目的・使う人・正とするデータ・作らないことを説明し直す手間が減ります。未決項目は、決める人と期限つきで開示します。見積もりの前提がそろうので、見積もりの根拠も確認しやすくなります。
Claude Codeなどに渡すときの注意
要件メモをClaude Codeのようなコードを書くAIに渡すときは、次の3点を守ると、前提のずれが減ります。
- メモは1つのファイルにして、最初の依頼で読ませます。会話の中にだけ書くと、長くなったときに前提が抜けます。
- 1回の依頼は、画面1つか機能1つに絞ります。メモの項目のうち、どれを今回作るかを指定します。
- 「作らないこと」の欄を、依頼文にも写します。AIが頼まれていない機能まで足すことがあるためです。
仕様の大枠が決まっていないままコードを書かせたときの失敗は、バイブコーディングのデメリットと失敗例に整理しています。
画面の絵と箱の絵をAIに出させ、要件メモを確かめる
要件メモができたら、コードを書かせる前に、AIに動かない画面の絵と箱の絵(ER図)を出させる方法があります。「このメモをもとに、画面の絵と、データの箱と線の図を出してください。動くものは作らないでください」と頼みます。出てきた絵を見ながら、使う人と一緒にメモと食い違う所を探します。言葉だけでは気づかない食い違いが見つかれば、メモを直してからコードに進みます。
効果は、未決項目の数と手戻りの回数で測る
要件定義にAIを使った効果は、次の3つを記録すると数字で分かります。
- 未決項目の数:要件メモの「未決項目」の欄の件数。作り始める前と、最初の画面ができたあとで比べます。
- AIの変更を前の状態に戻した回数:多いなら、メモに書いていない前提で作らせている可能性があります。
- 要件メモを書き直した回数と理由:「使う人が増えた」「データが足りなかった」の理由別に数えます。
最初の画面を作ったあとも未決項目が減らないなら、作る前に決めきれていない合図です。コードに戻らず、決める人と期限を確かめ直します。全体の進め方はAI駆動開発とはにまとめています。
まとめ|AIには質問させ、決めたことを渡す
要件定義をAIで進めるときは、AIに質問と整理を任せ、決めることは人が持ちます。SalesDockは、コードの前に業務の構造を文章にする進め方で、中小企業の経営管理基盤の実装と定着を月額で支援しています。まずは、作りたい業務アプリを1つ選び、目的と使う人を数行で書いて、AIに質問だけを出させるところから始めてください。
作る前の要件メモを、一緒に書くところから相談できます
作りたい業務アプリの、誰が使うか・何で使うか・どのデータとつながるか・どこを正とするかを、いまの業務を聞きながら整理します。自分で作り進めるか、任せるかの判断もその場でお伝えします。
30分の無料相談を予約する要件定義とAIに関するよくある質問
要件定義はAIだけで進められますか?
AIだけでは進められません。聞き取り項目の洗い出し、話した内容の整理、文書の下書きはAIに任せられますが、何のために作るか、誰が最終判断するか、どこまでの精度で足りるかは、業務を知る人が決める必要があります。AIは足りない情報を推測で埋めることがあるため、決める部分を任せると、もっともらしいが業務に合わない要件ができるおそれがあります。
要件定義にChatGPTやClaudeを使うときのコツはありますか?
「要件を書いて」と頼まず、「足りない情報を質問してください。答えを書き込まずに、質問だけを出してください」と頼むのがコツです。AIに推測で埋めさせず、こちらが答える形にすると、決めていないことが見つかります。答えをまとめる段階で初めて、1枚の要件メモにしてもらいます。
Claude Codeで開発する前に、要件定義は必要ですか?
業務で他の人が使うアプリなら、必要です。Claude Codeはコードを書くのが得意ですが、誰が使い、どのデータとつながるかは、こちらが伝えない限り推測になります。要件メモを1枚のファイルに書き、最初の依頼で読ませると、依頼のたびに前提を説明し直す手間も減ります。
AIを使うと、要件定義書はどのくらい簡単になりますか?
要件メモの表(目的・使う人・データ・正とする場所・作らないこと・OKの条件・未決項目)が1枚に収まる小さな社内アプリなら、数十ページの文書までは要らないことが多いです。線引きの基準は、間違えたときに金額や法的な責任に直結するかどうかです。請求や給与の計算のように直結する場合は、詳細な仕様を文書にしておくほうが安全です。
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泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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