空き家900万戸の内訳|実際に動かせるのは何戸かを住宅・土地統計調査から読む
この記事は母数の話だけを扱います。公表統計の内訳をたどって、 自社が狙える範囲がどのくらいの規模なのかを見積もるための記事です。 事業モデルの組み方と仕入れルートの作り方は「空き家ビジネスの始め方—仕入れて再生するための実務ガイド」で扱っているので、実務の手順はそちらを参照してください。
この記事のポイント
空き家900万2千戸は総住宅数に占める比率の話で、仕入れ候補の在庫量ではない。 種類別に割ると、売り物として市場に出ているのは32万6千戸。 いわゆる放置された空き家に相当する区分は385万6千戸で、一戸建に絞ると285万1千戸。 しかも一戸建と共同住宅では空き家の性格が真逆になる。そして5年間で増えたのは市場に出ていない側だった。
「空き家が900万戸あるので、拾って再生すれば商売になるはずだ」という前提で 相談をいただくことがあります。方向としては間違っていないのですが、 900万戸という数字は、そのまま仕入れ候補の在庫として使える数字ではありません。 内訳を開くと、性格の違うものが1つの言葉にまとめられていることが分かります。
この記事では、総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査の確報集計を使って、 900万戸をどう割れば事業判断に使える数字になるかを整理します。 統計で決められることには限界があるので、 どこまでが統計の仕事で、どこからが現地と交渉の仕事なのかも最後に書きます。
900万2千戸は「総住宅数の13.8%」という比率であって、在庫量ではない
まず総数を置きます。表2-1(p.3)によると、2023年10月1日現在の総住宅数は6,504万7千戸で、2018年から4.2%増えています。 このうち空き家は900万2千戸、 総住宅数に占める割合は13.8%です。
ここで見落とされやすいのは、分母のほうも増えているという点です。 総住宅数が5年で4.2%増えている状態で空き家率を語るので、 「空き家が増えた」という感覚と「空き家率が上がった」という事実は、 同じ現象の別の側面を見ています。事業判断で必要なのは率ではなく、 自社が接触できる戸数のほうです。率は市場の温度を測る指標として使い、 母数の見積もりには使わないという整理が現実的です。
もう1つ、この調査の「空き家」は住宅として集計されたものだという前提があります。 同調査では廃屋を住宅に含めないため、現地を歩いて 「これは完全に空き家だ」と判断する建物が、統計上の900万2千戸に 入っていない場合があります。統計の数字は現地の体感より控えめに出ることがある、 という向きで理解しておくと安全です。
種類別に割ると、売り物として市場に出ているのは32万6千戸
表2-2(p.4)は、空き家を4つの種類に分けて集計しています。 この表を見ると、900万戸を1つの母数として扱えないことがはっきりします。
| 空き家の種類 | 戸数 | 空き家総数に占める割合 |
|---|---|---|
| 賃貸用の空き家 | 443万6千戸 | 49.3% |
| 賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家 | 385万6千戸 | 42.8% |
| 二次的住宅 | 38万4千戸 | 4.3% |
| 売却用の空き家 | 32万6千戸 | 3.6% |
最大の区分は賃貸用の443万6千戸ですが、これはすでに募集がかかっている空室です。 所有者も管理会社もついていて、流通在庫として動いている物件です。 新しく参入して仕入れる余地を測る数字ではありません。 賃貸事業として空室を埋める仕事の市場規模を見たいなら、 この443万6千戸が母数になります。逆に、仕入れの話をしているときに この数字を混ぜると、母数が実態より大きく膨らみます。
一方、売却用の空き家は32万6千戸、空き家総数の3.6%しかありません。 これは所有者が売る意思を表明している在庫で、 仲介や買取の対象として最も手前にある層です。900万戸という印象と、 実際に売り物として市場に出ている量の差が、 空き家事業の見立てを狂わせている最大の原因だと考えています。
世間で「放置されている空き家」と呼ばれているものに最も近いのは、 「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」の385万6千戸です。 募集も売却もされていない状態なので、母数としては十分に大きい。 ただし後述するとおり、この区分に入っていることは 取得できることも再生できることも意味しません。
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改善ガイドを無料でダウンロード一戸建と共同住宅で、空き家の性格が真逆になる
同じ表2-2(p.4)を建て方で割ると、空き家という言葉が指す中身が 建物の種類でほぼ入れ替わることが分かります。 空き家総数のうち一戸建は352万3千戸(39.1%)、 共同住宅は502万9千戸(55.9%)です。 戸数だけ見ると共同住宅のほうが多いのですが、中身がまったく違います。
| 建て方 | 空き家の戸数 | その中の主な区分 |
|---|---|---|
| 一戸建 | 352万3千戸(39.1%) | 賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家が80.9%(285万1千戸) |
| 共同住宅 | 502万9千戸(55.9%) | 賃貸用の空き家が78.5%(394万7千戸) |
一戸建の空き家は8割が「募集も売却もされていない」状態で、 共同住宅の空き家は8割が「募集中の空室」です。 やるべき仕事がまったく別になります。前者は所有者を特定して接触し、 手放す判断をしてもらうところから始まる仕事で、後者は すでに市場に出ている部屋の埋め方を工夫する仕事です。 前者は案件が発生するかどうかが読めず、後者は競合と条件で戦います。
社内会議で「空き家をやろう」という議題を立てたときに話が噛み合わないのは、 多くの場合ここが原因です。戸建の再生を想像している人と、 管理物件の空室対策を想像している人が、同じ言葉で別の事業を議論しています。会議の冒頭で、どちらの母数の話をしているかを確認するだけで、 議論の空転はかなり減ります。
5年間で増えたのは、市場に出ていない側だった
増減も見ておきます。表2-1(p.3)の2018年から2023年の変化では、 「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」が36万9千戸増(+10.6%)、 「賃貸用の空き家」が10万9千戸増(+2.5%)でした。 戸数でも伸び率でも、開きがはっきり出ています。
伸びているのは、募集も売却もされていない側です。 つまり母数は増えているが、市場に出てくる量が増えているわけではない。 「これから空き家がどんどん出てくるから、待っていれば案件が流れてくる」という読み方は、 この数字とは合いません。増えているのは所有者が動いていない在庫であり、 動かすための働きかけをする人がいなければ、そのまま積み上がる性質のものです。
この差は、事業計画の書き方に直接影響します。母数の伸びを根拠に 「市場が拡大しているので受注は増える」と置くと、 実際に増えているのは動いていない在庫なので、想定が外れます。 伸びを根拠にするなら、増えている側に働きかける仕組みを 同時に計画に入れる必要があります。逆に、売り物として出てくる在庫を 待って拾う前提の計画であれば、母数の伸びは根拠として使えません。
この増減から読める2つのこと
- 待ちの姿勢では、母数の増加が売上につながらない。 案件化の働きかけそのものが事業の中身になる
- 売り物として出てくる量が増えていない以上、 仲介の在庫獲得競争は母数の伸びほど楽にならない
経営者がこの統計から取り出せる判断材料は3つ
以上の内訳を踏まえると、事業判断に持ち帰れるのは次の3点です。 いずれも「参入するかどうか」ではなく、参入するとしたらどの母数に賭けるかを決めるための材料です。
- 全国比率を自社商圏にそのまま掛けない。13.8%も種類別の構成比も全国の集計です。共同住宅が多い都市部と 一戸建中心の地域では、同じ「空き家」の中身が入れ替わります。 住宅・土地統計調査は市区町村別の集計も公表されているので、 事業計画に数字を置くなら自社の商圏の集計を見てから比率を決めます
- 案件化の工数が仕入れコストの本体になる。「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」に分類されている状態は、 所有者が手放す意思を示していない状態に近いと考えるほうが実務に合います。 したがって原価に載るのは物件価格と工事費だけではなく、 所有者を探して話が動くまでの人件費です。採算をどう読むかは「買取再販の利益率」の整理があわせて参考になります
- 戸建の再生と共同住宅の空室対策は、別事業として原価を分ける。一戸建の8割と共同住宅の8割が逆の区分に入っている以上、 案件化率も工期も回収期間も別の数字になります。 同じ部門で同じ予算のまま両方を追うと、 どちらの採算が悪いのか判別できなくなります
この3点は、いずれも「やる/やらない」を決める材料ではありません。 決めるのは、探す場所と、そこにかける人の時間の上限です。 空き家を扱う事業でいちばん先に溶けるのは、 物件を買う資金ではなく所有者を探す時間だからです。
統計で分かるのは「どこを探すか」までで、その先は現地の情報
最後に限界を書きます。この調査は建物と世帯の状態を集計したもので、 案件化できるかどうかを左右する情報は含まれていません。 具体的には、次のような点は統計からは分かりません。
統計では分からないこと
- 相続が発生したまま登記が動いていないか。共有名義になっていないか
- 建物内に残置物がどれだけあるか。処分の手配が誰の負担になるか
- 接道の状況や再建築の可否。土地として扱えるのか建物を残すのか
- 所有者が現に住んでいる場所が判明するか。連絡がつく状態か
この4つはどれも、案件1件ごとに人が動かないと確認できません。 つまり統計でできるのは探す場所の優先順位づけまでで、 そこから先は現地と権利関係の調査になります。 逆に言えば、統計を見ないまま探し始めると、 そもそも母数の薄い場所に人の時間を投じてしまいます。 統計は入口の絞り込みに使い、案件の判断には使わない、 という切り分けが実務的だと考えています。
出典
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」(2024年9月25日公表・PDF):表2-1(p.3)総住宅数6,504万7千戸(2018年から4.2%増)、空き家900万2千戸、空き家率13.8%、および2018年から2023年の空き家の種類別増減(「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」+36万9千戸/+10.6%、「賃貸用の空き家」+10万9千戸/+2.5%)。表2-2(p.4)空き家の種類別内訳(賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家385万6千戸/42.8%、賃貸用の空き家443万6千戸/49.3%、売却用の空き家32万6千戸/3.6%、二次的住宅38万4千戸/4.3%)および建て方別内訳(一戸建352万3千戸/39.1%、共同住宅502万9千戸/55.9%、一戸建の空き家のうち「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」80.9%=285万1千戸、共同住宅の空き家のうち「賃貸用の空き家」78.5%=394万7千戸)。いずれも2023年10月1日現在の全国値
※ 同調査の利用上の注意により、数値は表章単位未満の位で四捨五入しているため、 総数と内訳の合計は必ずしも一致しません。また同調査では廃屋を住宅に含めないため、 現地で空き家と見える建物が集計に入っていない場合があります。 「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」に分類されていることは、 その物件を取得できる、あるいは再生できることを意味しません。 住宅・土地統計調査は5年ごとの調査であり、2023年10月1日現在の状態を示すものなので、 最新の市況とはずれます。本記事は公開されている統計をもとにした一般的な整理です。
よくある質問
空き家900万戸のうち、売買市場に出ているのはどのくらいですか?
総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」の表2-2(p.4)では、空き家900万2千戸の種類別内訳として、売却用の空き家が32万6千戸(空き家総数の3.6%)と示されています。売却の意思が表明されている在庫はこの部分です。賃貸用の空き家443万6千戸(49.3%)は募集中の空室、つまりすでに流通している在庫であり、新規参入の余地を測る数字とは性格が違います。900万戸をそのまま仕入れ候補の母数として扱うと、実態と大きくずれます。
「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」に分類されていれば取得できますか?
分類は取得可能性を意味しません。この区分は385万6千戸(空き家総数の42.8%、表2-2 p.4)で、いわゆる放置されている空き家に最も近い集計ですが、募集も売却も行われていない状態である以上、所有者が手放す意思を示していない状態に近いと考えるほうが実務に合います。統計上の分類と、交渉して契約に持ち込めるかどうかは別の問題です。案件化までの接触や調査の工数が、実質的な仕入れコストの本体になります。
戸建の空き家と共同住宅の空き家は同じ事業として扱えますか?
同じ事業として扱うと採算が読めなくなります。表2-2(p.4)の建て方別では、一戸建の空き家352万3千戸のうち80.9%(285万1千戸)が「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」で、共同住宅の空き家502万9千戸のうち78.5%(394万7千戸)が「賃貸用の空き家」です。前者は所有者を探して案件化する仕事、後者は募集中の空室を埋める仕事で、必要な人員も原価構造も別になります。社内では原価と担当を分けて管理するほうが実態に合います。
全国の比率を自社の商圏にそのまま当てはめてよいですか?
当てはめないほうが安全です。空き家率13.8%(表2-1 p.3)は全国の値であり、種類別の構成比も全国集計です。共同住宅の多い都市部と一戸建中心の郊外・地方では、同じ「空き家」という言葉が指す中身が変わります。住宅・土地統計調査は市区町村別の集計も公表されているため、事業判断に使うなら自社の商圏の集計を確認してから比率を置き直してください。あわせて、5年ごとの調査であることも前提として扱う必要があります。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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