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不動産

重要事項説明書に電子署名は必須か|立会人型と当事者型の違いと、書面ごとに要るもの

9分で読める

電子契約の進め方・導入手順は「不動産の電子契約、何から始める?」で扱っています。この記事は導入手順ではなく、署名の方式の違いと、どの書面に何が要るかだけを扱います。

この記事のポイント

「電子署名」という一語が、宅地建物取引業法まわりの書面の要件の話と、電子署名法の裁判での推定の話の2つを同時に指してしまっている。この2つを分けると、書面ごとに必要なものがはっきりする。

不動産の電子契約サービスを比較していると、「立会人型」「当事者型」「実印相当」といった言葉が出てきます。ここで多くの現場が止まります。どれを選べば重要事項説明書に使えるのか、そもそも重説に電子署名が要るのかが、比較表を見ても書いていないからです。

原因は用語のほうにあります。不動産取引で「電子署名」と言うとき、実際には別々の2つの話が混ざっています。

話A:宅地建物取引業法まわりの「書面の要件」

重要事項説明書などを紙でなく電子で渡してよいか、渡すときに何を満たす必要があるか。行政ルールの話。

話B:電子署名法の「裁判での推定」

その電子文書が本人の意思で作られたものだと、争いになったときにどう扱われるか。訴訟での証拠の話。

立会人型と当事者型の違いが効いてくるのは、主に話Bのほうです。話Aの要件は、実は電子署名を名指ししていません。ここを分けずに読むと、比較表がいつまでも読み解けません。

話A:宅建業法の3書面に求められているのは2つだけ

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の施行により、2022年5月18日から、媒介契約締結時の書面・重要事項説明書・契約締結時の書面を電磁的方法で提供できるようになりました。あわせて宅地建物取引士の押印が廃止されています。

国土交通省の実施マニュアルでは、提供する電子書面が満たすべき要件として次の2つが挙げられています。

ⅰ 説明の相手方等が出力することにより書面(紙)を作成できるものであること
ⅱ 電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置を講じていること

ここに「電子署名を付すこと」とは書かれていません。同マニュアルでは、ⅱを満たす措置として想定されるものとして電子署名とタイムスタンプが挙げられ、FAQでは、現時点で国土交通省が確認できている措置はこの2つであり、それ以外は今後の技術進歩を踏まえて確認のうえ追加的に示したい旨が記載されています。

つまり求められているのは「後から中身が書き換わっていないと相手が確認できること」という機能であって、特定の署名方式ではありません。電子署名は、その機能を満たす手段として現時点で認められている2つのうちの1つ、という位置づけです。

よくある取り違え:「宅建士の記名」=電子署名という理解。実施マニュアルのFAQでは、この記名について「宅建士の氏名が判別できるのであれば、単に印字されているだけでも構いません」と記載されています。記名の要件と、改変確認の措置の要件は別の話です。

なお、媒介契約締結時の書面はもともと宅地建物取引業者の記名押印が必要な書面で、電磁的方法で提供する場合は「記名押印に代わる措置」を講じるものとして省令で定めるところによる、という建て付けになっています。重要事項説明書・契約締結時の書面(宅建士の記名)とは扱いが違うので、社内で「3書面まとめて同じ運用」にするときは一度確認しておくと安全です。

話B:立会人型と当事者型は、何がどう違うのか

電子署名法では、電子署名を「その情報が措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのもの」かつ「その情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるもの」と定義しています。そのうえで、真正な成立の推定に関する規定は、対象を「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」と絞り込んでいます。

紙の私文書では、本人の署名または押印があると真正に成立したものと推定される、というルールが民事訴訟のルールにあります。電子署名法の推定規定は、その電子版にあたるものと整理できます。争いになったときの立証の重さが変わる、という実務上の意味があります。

立会人型(事業者署名型)当事者型(ローカル署名型)
署名鍵を持つのは誰かサービス提供事業者。利用者の指示を受けて事業者自身の署名鍵で暗号化等を行う署名者本人。ICカード等で本人が保有する
署名する側の準備メールを受け取って画面上で操作する。相手方に事前準備をほぼ求めない当事者ごとに電子証明書の発行を受ける必要がある
推定規定との関係方式名だけでは決まらない。後述の「固有性の要件」を満たしているかで判断されると示されている本人が鍵を適正に管理していることが前提の構造になっている
不動産実務での使われ方取引の相手方が一般個人になる売買・賃貸で現実的な選択肢当事者が限られ、反復して取引する法人間の契約で選ばれやすい

立会人型の位置づけは、総務省・法務省・経済産業省の連名Q&Aで整理されています。2020年7月17日に電子署名法の定義との関係、同年9月4日に推定規定との関係が公表されました。

9月4日のQ&Aでは、推定規定の対象となるには、暗号化等の措置を行うための符号について他人が容易に同一のものを作成することができないと認められること(固有性の要件)が必要とされています。そして事業者が利用者の指示を受けて署名するサービスについては、①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス②その利用者の行為を受けて事業者内部で行われるプロセスいずれにおいても十分な水準の固有性が満たされている必要があると示されています。

①について同Q&Aが挙げている例が、利用者が2要素による認証を受けなければ措置を行えない仕組みです。例として、あらかじめ登録されたメールアドレスとログインパスワードの入力に加え、スマートフォンへのSMS送信や手元のトークンなど、そのメールアドレスの利用以外の手段で取得したワンタイムパスワードを入力して認証するものが示されています。

ここから読み取れる実務上の含意は1つです。「立会人型だから推定は働かない」も「立会人型でも必ず働く」も、どちらも言い過ぎになります。判断されるのはシステムやサービス全体のセキュリティであって、方式のラベルではありません。サービス選定では「2要素認証をオンにできるか、そして実際にオンで運用しているか」まで見る必要があります。

なお、電子署名の検証に使うものが本人のものであることを確認する業務(認証業務)のうち一定の基準を満たすものについては、国の認定を受けられる制度があり、認定を受けた業務は法務省が一覧を公表しています。当事者型を検討する場合は、この一覧が出発点になります。

書面ごとに「何が要るか」を並べる

ここまでの話Aと話Bを、不動産取引で実際に出てくる書面に当てはめると次のようになります。混乱の多くは、この行ごとの違いを1つのルールにまとめようとして起きています。

書面電子で提供できるか求められている中身
媒介契約締結時の書面依頼者の承諾を得て可紙に出力できること/改変確認の措置。紙では宅建業者の記名押印が必要な書面で、電磁的方法では「記名押印に代わる措置」を講じるものとされている
重要事項説明書相手方の承諾を得て可紙に出力できること/改変確認の措置/宅建士の記名。提供する時点で改変防止措置を含む全要件を満たしている必要がある旨がマニュアルに明記されている
契約締結時の書面相手方の承諾を得て可紙に出力できること/改変確認の措置/宅建士の記名
定期借家の「更新がない」旨の事前説明書面賃借人の承諾を得て電磁的方法により提供できる旨の規定があるこの説明をしなかったときは、更新がないこととする定めは無効とされている。渡し方より「説明したこと」が要
定期借家の契約そのもの電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなす旨の規定がある書面によることが前提の類型なので、電磁的記録である以上、後から中身を確認できる形で残すことが実務上重要になる
事業用定期借地権の設定契約公正証書によってしなければならないと定められている電子契約サービスの土俵に乗らない。ここだけ別の段取りになる

表の最後の2行が、現場で一番刺さるところです。「うちは全部電子にした」と言っている会社でも、事業用定期借地権が1件混ざった瞬間に段取りが変わります。全社ルールを1本にするのではなく、この行を持つ取引だけ別レーンにしておくのが、結局いちばん壊れません。

署名方式より先に決まっているもの

サービス比較を始める前に、順番として先に来るものが2つあります。どちらも署名方式とは無関係に効いてきます。

1. 相手方の承諾が先にある

電磁的方法による提供には相手方の承諾が要ります。実施マニュアルでは、承諾を求めるのに先立って、宅建業者が①電子書面を提供する方法(メール等/Webからのダウンロード/CD-ROMやUSBメモリ等の交付)と②ファイルへの記録の方式(ソフトウェアの形式やバージョン等)を相手方に示す必要があるとされています。承諾を得たあとにこれらを変更した場合は、変更後の内容で改めて承諾を取り直す必要があるとも書かれています。運用でいちばん抜けるのがこの取り直しです。

2. 承諾は撤回されうる

いったん承諾した相手方が、あとから拒否する旨を申し出ることができます。拒否された場合は電磁的方法で提供してはならないとされています。電子を前提に組んだ業務フローに、紙に戻る導線を必ず一本残しておく必要があります。

おまけ:有効期間の話を先にしておく

実施マニュアルでは、電子署名で用いられる電子証明書やタイムスタンプには有効期間があることから、利用する場合は有効期間を相手方に説明したうえで、有効期間後の取扱いについて事前に協議しておくことが望ましいと考えられる、と記載されています。10年20年と残る不動産の書面では、地味に効いてくる論点です。

まとめ

不動産取引の「電子署名」は、宅建業法まわりの書面の要件と、電子署名法の推定の話が別々に動いています。前者が求めているのは、紙に出力できることと、改変されていないかどうかを確認できる措置の2つで、その措置として現時点で示されているのが電子署名とタイムスタンプです。宅建士の記名は、氏名が判別できれば印字でも構わないとされています。

後者では、立会人型か当事者型かというラベルではなく、固有性の要件を十分な水準で満たしているか(利用者と事業者の間のプロセスと、事業者内部のプロセスの両方)で判断されると示されています。2要素認証が例として挙げられているのは、そういう意味です。

そして書面ごとに扱いが違います。事業用定期借地権の設定契約のように公正証書によることとされているものは、そもそも電子契約の土俵に乗りません。1本のルールにまとめず、書面の種類で分けて持つ。この整理さえできていれば、サービス比較表は10分で読めるようになります。

関連記事

この記事は署名方式と書面ごとの要件だけを扱いました。導入の進め方と、説明そのもののオンライン化は、それぞれ別の記事で扱っています。

この記事で参照した一次情報

※ 本記事は公開されている公式資料をもとにした一般的な整理であり、法的助言ではありません。制度や運用は変更されることがあります。個別の取引での判断は、必ず最新の法令・国土交通省の資料および顧問の弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。

よくある質問

重要事項説明書を電子で提供するとき、電子署名は必須ですか?

国土交通省の実施マニュアルでは、電子書面の要件は「説明の相手方等が出力することにより書面(紙)を作成できるものであること」と「電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置を講じていること」の2つとされています。後者を満たす措置として想定されるものとして電子署名とタイムスタンプが挙げられており、同マニュアルのFAQでは、現時点で国土交通省が確認できている措置はこの2つであると記載されています。つまり要件は「改変確認ができること」であって、電子署名そのものが名指しで義務づけられているわけではありません。個別の取引での判断は最新の公式資料と顧問の専門家にご確認ください。

35条書面・37条書面の「宅地建物取引士の記名」は電子署名でなければいけませんか?

国土交通省の実施マニュアルのFAQでは、この記名について「宅建士の氏名が判別できるのであれば、単に印字されているだけでも構いません」と記載されています。なお2022年5月18日の施行により、宅地建物取引士の押印は廃止されています。記名の要件と、改変確認の措置の要件は別の話として整理するとわかりやすくなります。

立会人型(事業者署名型)の電子署名でも裁判上の推定は働きますか?

総務省・法務省・経済産業省が2020年9月4日に公表したQ&Aでは、サービス提供事業者が利用者の指示を受けて自身の署名鍵で暗号化等を行うサービスについて、電子署名法の推定規定の対象となるには「固有性の要件」を十分な水準で満たす必要があるとされています。具体的には、利用者と事業者の間のプロセスと、事業者内部のプロセスの双方で固有性が求められ、前者については、たとえば利用者が2要素による認証を受けなければ措置を行えない仕組みがある場合に認められ得ると示されています。方式の名前だけで自動的に決まるものではありません。

電子化できない不動産関連の契約はありますか?

借地借家法では、事業用定期借地権の設定を目的とする契約は公正証書によってしなければならないと定められています。一方、定期建物賃貸借(定期借家)については、契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなす旨の規定があり、契約前に行う「更新がない」旨の説明書面も、賃借人の承諾を得て電磁的方法により提供できる旨が定められています。書面の種類ごとに扱いが違うため、一括りにはできません。

泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。

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