SalesDock ロゴSalesDock

AI活用入門 · 公開 · 10分で読める

最終更新

オントロジーAIとは?ナレッジグラフとの違いと、中小企業が最初に決める言葉の定義

執筆:泉 款太(株式会社SalesDock 代表取締役)累計40社以上の中小企業を支援

オントロジーAIとは?ナレッジグラフとの違いと、中小企業が最初に決める言葉の定義

結論

オントロジーはもともと、AI研究で「ある領域に存在するものと、その関係を明示的に書き出したもの」を指す言葉です。AIに自社の業務を任せるとき、AIは言葉を一般的な意味で読みます。自社の「顧客」や「接点」が一般の意味と違えば、答えはずれます。専用のデータベースを組む前に、言葉の定義を揃えることから始めると、少ない費用で効果を確かめられます。

  • オントロジーAIとは、業務で使う言葉の意味と、言葉どうしの関係を先に決めてAIに渡す考え方です。AIの製品名ではありません。
  • ナレッジグラフは、その決まりに沿って実際のデータをつないだものです。RAGは、質問に近い文書を探して回答に添える仕組みで、言葉の定義は別に要ります。
  • 中小企業が最初にやるのは、専用ツールの導入ではなく、10語前後の用語定義表を紙1枚で作ることです。AIの回答が人によって食い違う原因の多くは、AIではなく言葉の意味のずれにあります。

オントロジーとは、業務で使う言葉の意味と関係を書き出したものです

オントロジーは、もとは哲学の「存在論」を指す言葉です。AIや情報科学では、ある領域に存在するものと、そのあいだの関係を、明示的に書き出したものの意味で使われます。コンピュータ科学での定義として広く引用されるのは、トム・グルーバーによる「概念化の明示的な仕様(explicit specification of a conceptualization)」という言い方です。

業務に置き換えると、「この会社で『顧客』とは何を指し、『商談』や『担当者』とどうつながるか」を、人にもAIにも読める形で書いたものです。難しい記述言語で書く方法もありますが、考え方としては、用語の辞書と、用語どうしの関係図です。

AIの回答データ(ナレッジグラフ)A社の担当は田中さん決まり:取引先には担当がつく
下の層が言葉の決まり、中の層が実際のデータです。決まりがあいまいだと、上のAIの回答も人によってぶれます。

Webの世界では、W3C(World Wide Web Consortium)が、オントロジーを書くための言語としてOWL 2を標準化しています。OWL 2では、クラス(種類)・プロパティ(関係や属性)・個体(具体的な1件)・データ値(日付や金額などの値)でオントロジーを表します。取引先の例では、次のようになります。

  • クラス(種類):「取引先」
  • プロパティ(関係や属性):「担当者を持つ」
  • 個体(具体的な1件):「A社」
  • データ値(日付や金額などの値):「2026年10月20日」

ナレッジグラフ・RAGとの違いは、「決まり」か「データ」か「検索」か

「オントロジーAI」と並べて検索される言葉に、ナレッジグラフとRAGがあります。3つは競合する選択肢ではなく、役割が違います。次の表で、何を指すかと、中小企業の業務での例を並べます。

名前何を指すか業務での問いの例実体
オントロジー言葉(概念)の意味と、概念どうしの関係を決めたもの「接点」とは何か。「顧客」と「取引先」はどう違うか決めた内容を文書やデータ構造にして持つ
ナレッジグラフオントロジーに沿って、実際のデータを「A社は取引先である」のようにつないだものA社の担当者は誰で、いつ商談したかつながったデータ。グラフ型のデータベースなどで持つ
RAG質問に近い文書を検索して、AIの回答に添える仕組み「見積書の承認ルールは?」に社内規程から答える文書の置き場と検索の仕組み。言葉の定義は別に要る

ナレッジグラフは、RDF(W3Cが定めたデータの表し方)では「主語・述語・目的語」の3つ組を並べて表します。この3つ組を、オントロジーの決まりに沿って集めたものがナレッジグラフです。

  • A社(主語)・担当者は(述語)・田中さん(目的語)
  • 田中さん(主語)・所属は(述語)・営業部(目的語)

RAGとの違いは、RAGは文書を探す仕組みで、言葉の意味を揃える仕組みではないことです。社内文書の中で「取引先」「顧客」「クライアント」が同じ意味で混在していると、キーワード検索では、「顧客」で検索したときに「取引先」と書かれた文書を拾い漏らすことがあります。意味で探すベクトル検索は類義語をある程度拾いますが、社内の独自の使い分けまでは読み取れません。AIにとっての文書の質は、言葉が揃っているかどうかで決まる部分があります。なお、AIエージェントと生成AIの違いはAIエージェントと生成AIの違いで整理しています。

AIの回答がぶれる原因は、AIの性能より先に言葉の意味のずれにあります

オントロジーが注目される理由は、AIに業務を任せる場面で、同じ言葉が人や部署ごとに違う意味で使われていることが表に出てくるからです。支援先で見た例を、業種と規模だけ書いて紹介します。

  • 在庫システムは入っていたのに、動いていなかった会社。在庫を管理したいという相談で現場へ行くと、システムは前年に導入済みでした。動かない理由はシステムの機能ではなく、商品の呼び名が決まっていないことでした。同じ品物が人によって違う名前で入力されていました。
  • 提携先ごとに列名が違うデータを受け取っている会社。提携先から届くデータの列名が「会社名」「企業名」「勤務先名」とバラバラで、全部同じ意味でした。しかも先方の都合で予告なく変わります。列名で突き合わせる仕組みは、名前が変わるたびに止まります。
  • 勤怠の管理画面に、実態とずれた休暇名が残っていた会社。「祝日振替」という休暇が、祝日とは関係なく、在籍月数と役割で日数が変わる自社独自の休暇でした。名前だけが昔の運用のまま残っていました。名前から意味を推測する人にも、AIにも誤解されます。
  • カレンダーから顧客との接点を自動で集めた会社。一覧を見せると、「これは接点ではない」という指摘が何件も返ってきました。「接点」の定義が決まっていなかったため、社内の予定まで拾っていました。

在庫の呼び名、提携先の列名、休暇名、接点の4つの事例は、どれも仕組みの性能の問題ではなく、言葉の定義が先に決まっていなかったことが止まった原因でした。AIはこの状態を直してくれません。むしろ、あいまいな言葉をもっともらしい文章に整えて返すため、ずれが見えにくくなります。

「接点」の意味が揃っていない営業面談のみ経理請求した相手予定表全部の予定AIの集計が人で変わる定義を1つに決める含むものと含まないもの
同じ言葉の意味が部署で違うと、AIの集計も揃いません。定義を1つに決めるのが、AIに渡す前の最初の作業です。

データそのものを揃える手順はデータ整備の進め方に、顧客管理の項目を決める前の考え方はCRM構築前のデータ定義にまとめています。この記事は、その一段手前の「言葉の意味を決める」部分を扱います。

最初の一歩は、10語前後の用語定義表を紙1枚で作ることです

専用のツールを入れなくても、用語と、含むもの・含まないもの、決める人を表に書くだけで、AIに渡す定義の原型ができます。用語定義表は、用語・含むもの・含まないもの・決める人の4列で書きます。例として「接点」は、メール1通・面談1回・電話1本を1件と数え、社内の予定は含めません。自社の言葉に置き換えて使えます。

用語含むもの(定義)含まないもの決める人
接点顧客と直接やり取りした記録。メール1通・面談1回・電話1本を1件と数える社内の予定、顧客が参加していない打ち合わせ営業責任者
商談金額の見込みがついた案件で、次の面談日が決まっているもの情報交換だけの面談、資料送付のみ営業責任者
取引先請求書を1枚でも発行した相手先見積だけで終わった相手、問い合わせ段階の相手経理担当
休暇(自社独自のもの)付与日数の決め方と、使える条件を一文で書く名前が似ている法定の休暇総務担当

表の中身は、あくまで書き方の例です。自社の定義は、責任者が自分で決めてください。ここで大事なのは、「含まないもの」の列を空にしないことです。「接点ではない」と指摘された例のように、現場が間違いに気づくのは、含まないものを見たときだからです。取引先マスタの責任者を決める進め方は取引先マスタの責任者設計、商品コードの粒度は商品マスタの作り方が参考になります。

作り方は5段階で、AIに貼って食い違いを数えるところまでやります

オントロジーの作り方は、最初から全社の言葉を網羅しようとしないのがこつです。AIに答えさせたい質問を起点に、必要な言葉だけを決めます。5段階を表にまとめました。

段階やること具体例測るもの
1AIに答えさせたい質問を3つ書く「今月の失注理由は?」のように、実際に毎週聞かれていること質問が3つ書けたか
2その質問に出てくる名詞を拾う「失注」「顧客」「担当」「今月」など。10語前後で十分拾った語の数
3語ごとに、含むものと含まないものを書く上の用語定義表の形。1語につき2行まで定義が2人の間で一致するか
4語どうしの関係を矢印で書く「顧客に担当がつく」「商談に金額がつく」など矢印が10本以内に収まったか
5定義をAIへの指示の冒頭に貼って試す同じ質問を、貼る前と後で2回聞き、答えの食い違いを数える食い違いの件数が減ったか
1 質問を3つ書く2 出てくる言葉を拾う3 含む・含まないを書く4 言葉の関係を矢印で結ぶ5 AIに貼り、食い違いを数える食い違いが残る言葉は、1〜3に戻す
最後の段階で、貼る前と後の答えの食い違いを数えます。減らなかった言葉は定義が足りないので、前の段階に戻します。

効果の測り方は、AIに同じ質問を、定義を貼る前と後で2回聞き、答えの食い違いの件数を数える方法が最も手軽です。件数が減らなければ、定義の書き方が足りないか、そもそも原因が言葉ではないということです。AI導入全体の効果の見方はAI導入の効果測定にまとめています。

専用のオントロジー構築に進むのは、用語表で足りなくなってからで十分です

用語定義表と関係図で運用できているうちは、グラフ型のデータベースやOWLでの記述は要りません。進む目安は、次のような状態になったときです。

  • 用語が数百語を超え、表では更新と照合が追いつかない
  • 複数のシステムのデータを、同じ言葉の意味で横断して検索したい
  • 「A社の取引先の取引先」のように、関係を何段もたどる質問が増えた

逆に、責任者が定義を決められない状態で、ツールだけ先に入れても動きません。決める人がいない言葉は、ツールに入れても誰も更新しないためです。責任者が関与せず、業務の整理なしにツールの設定だけを求める場合は、SalesDockの支援でも適合しにくいと考えています。

SalesDockは、成長に経営管理・業務・データの仕組みが追いついていない中小企業に、経営管理基盤の実装と定着を月額で支援しています。AIを入れる前に、業務で使う言葉の意味をそろえる作業は、その最初の仕事の1つです。

この記事は、W3Cなどの公開資料と、SalesDockの支援現場で見た事例(業種・規模のみ記載)をもとにした解説です。オントロジーの導入による削減効果や売上への影響を示す数値は、SalesDockでは計測していません。

NEXT STEP

AIに渡す前に、自社の言葉の定義を整理する

AIに答えさせたい質問を3つ持ち寄り、そこに出てくる言葉の定義と、決める人、確かめ方を60分で整理します。

無料相談を申し込む

オントロジーAIでよくある質問

オントロジーAIとは何ですか?

オントロジーAIは、業務で使う言葉の意味と、言葉どうしの関係をあらかじめ決めて、AIに渡して使う考え方です。この記事では、オントロジーAIを「AIが「顧客」「商談」といった言葉を自社と同じ意味で読めるように、事前に言葉の意味と関係を整理しておくこと」という意味で使います。決まった名前のAI製品を指す言葉ではありません。ナレッジグラフ型の製品などを指して使う文脈もあるため、他の資料を読むときは定義を確認してください。

オントロジーとナレッジグラフの違いは何ですか?

オントロジーは「言葉の意味と関係の決まり」で、ナレッジグラフは、その決まりに沿って実際のデータをつないだものです。たとえば「取引先には担当者がつく」が決まりで、「A社の担当者は○○さん」がつながったデータです。決まりが先にあり、データがあとからつきます。

オントロジーとRAGは何が違いますか?

RAGは、質問に近い文書を探して回答に添える仕組みです。オントロジーは、その文書の中の言葉が何を指すかを揃える決まりです。RAGだけで始めても動きますが、同じ意味の言葉が文書ごとに違うと、検索方式によっては拾い漏れが出ることがあります。両方を組み合わせて使うことが多いです。

中小企業にオントロジーは必要ですか?

専用のツールやグラフ型のデータベースは、多くの中小企業ではまだ要りません。一方、用語定義表を紙1枚で作ることは、AIを使う会社なら早い段階で効きます。同じ言葉が部署や人で違う意味を持っているとき、AIの回答は人によって食い違うからです。

オントロジーはどうやって作りますか?

AIに答えさせたい質問を3つ書き、その質問に出てくる言葉を拾い、言葉ごとに含むものと含まないものを書き、関係を矢印で結ぶ、という順です。専門の記述言語(OWLなど)で書くのは、その後の段階です。最初は表と図で足ります。

オントロジーを作るとAIの誤答(ハルシネーション)はなくなりますか?

なくなりません。言葉の意味が揃うと、意味の取り違えによる誤答は減らせますが、AIが事実と違うことを答える可能性は残ります。重要な回答は、元のデータや書類と人が照合する運用を並べて置いてください。

出典・一次情報

標準や用語の使われ方は更新されます。最新の情報は公表元でご確認ください。

泉

泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。

運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI内製化(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。

代表者情報を読む →

この記事の数値について

本文中に一次資料へのリンクがある数値は、リンク先を出典としています。 リンクのない業務設計、判断基準、実務上の目安は、SalesDockが累計40社以上の支援と自社運用で得た知見を一般化したものです。 個別企業での成果を保証する数値ではなく、条件によって変わります。