人時生産性とは?計算式と目安の見方、中小製造業で上げる4つの手順
この記事のポイント
人時生産性=粗利益高(付加価値額)÷ 総労働時間。式そのものは簡単で、難しいのは分子と分母をどこまでにするかを決めることと、出た数字を何と比べるかのほう。
人時生産性とは、粗利益高(付加価値額)を総労働時間で割った数字のことだ。「1時間働いて、いくらの粗利を生んでいるか」を円で表す。
式は一行で終わる。実務で詰まるのはそこではなく、分子に何を置くか、分母にどこまでの時間を入れるか、そして出てきた数字が高いのか低いのかをどう判断するか、の3つだ。この記事はその順番で書いている。
人時生産性とは「1時間あたり、いくらの粗利を生んだか」
人時生産性(円/時間)= 粗利益高(付加価値額) ÷ 総労働時間
分子を売上高ではなく粗利益高に置くのが、この指標のいちばんの特徴になる。売上高で割ると、材料費の高い製品を扱っている会社や、外注比率の高い会社の数字が実力以上に大きく出る。仕入れた金額はそのまま通過しているだけで、自社が生み出した分ではないからだ。粗利で見ておけば、材料が値上がりして売上が膨らんだときに、数字が勝手に良くなることもない。
分母を人数ではなく時間に置くのも同じ理由だ。人数で割ると、パートや短時間勤務の人が増えたときに数字が落ちて見え、残業でしのいだ月は逆に良く見える。時間で割れば、その影響を受けずに済む。人の増減より働き方の変化のほうが速い職場では、時間で見るほうが実態に近い。
計算式の分子と分母を、先に決める
同じ会社でも、分子と分母の取り方を変えると人時生産性は簡単に2割3割変わる。だから計算する前に、自社ではこう置くと決めて、それを毎月変えないことが先にくる。
分子の3つの置き方
| 置き方 | 中身 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 粗利益高 | 売上高 − 売上原価 | 試算表からすぐ取れる。毎月回すならここから |
| 限界利益 | 売上高 − 変動費(材料費・外注費など) | 受注ごと・製品群ごとに比べたいとき |
| 付加価値額 | 営業利益 + 人件費 + 減価償却費 | 補助金の事業計画と数字を揃えたいとき |
3番目の付加価値額の式は、こちらが決めたものではなく補助金の側で定義されている。ものづくり補助金の公募要領では、付加価値額を「営業利益+人件費+減価償却費」とすると明記されている(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 第20次公募要領概要版・2025年4月25日、6ページ)。補助金の申請を視野に入れているなら、社内の指標も最初からこの定義に合わせておくと、後で作り直さずに済む。
分母に入れる時間の範囲
総労働時間には、実際に働いた時間をすべて入れる。正社員だけでなく、パート・アルバイト・派遣の時間も、残業時間も入れる。ここを外すと数字は良く見えるが、良く見えているだけになる。
迷いやすいのは間接部門の扱いだ。事務・営業・管理の時間を入れるかどうかで、同じ会社の数字が変わる。決め方としては、会社全体で見る数字と、現場で見る数字を分けて2本持つのが扱いやすい。全社版は全員の時間を分母に入れ、現場版は製造に関わる時間だけを分母にする。前者は経営の判断に、後者は工程の改善に使う。どちらか一方に統一しようとすると、たいてい使いにくいほうに寄る。
実際に計算してみる
手順を追えるように、仮の数字で1回計算しておく。以下は実在する企業の数字ではなく、計算の流れを示すための例として置いている。
前提(例):年間売上高 3億円、売上原価 2億1,000万円、従業員20名(うちパート5名)
手順1:分子を出す。3億円 − 2億1,000万円 = 粗利益高 9,000万円
手順2:分母を出す。正社員15名が年1,900時間、パート5名が年1,000時間だとすると、28,500時間 + 5,000時間 = 33,500時間
手順3:割る。9,000万円 ÷ 33,500時間 = 約2,687円/時間
ここで手を止めないほうがいい。全社の1本だけだと「で、どうする」に進めないからだ。同じ計算を、ラインごと・製品群ごと・受注区分ごとに分けて出すと、初めて動かせる場所が見える。全社では2,687円でも、特定の製品群だけ1,200円だった、というような差が出てくる。差が出た場所が、次に手を入れる候補になる。
分けて出すには、粗利を製品群ごとに割り振れることと、労働時間を製品群ごとに拾えることの両方が要る。前者が難しい場合は製造業の原価率の考え方を、時間の側から詰めたい場合は加工費レート(時間単価)の出し方を先に見てもらうと、必要なデータの形が揃えやすい。
出た数字は高いのか低いのか
最初に断っておくと、この記事では業種別の目安額を書いていない。中小製造業がそのまま自社に当てられる、公的な業種別の人時生産性の水準を見つけられなかったためだ。裏付けのない相場を書くより、比べ方を書くほうが役に立つと考えている。
参考になるマクロの数字はある。日本生産性本部の集計では、2024年度の日本の時間当たり名目労働生産性(就業1時間当たり付加価値額)は5,543円で、現行基準のGDPをもとに計算できる1994年度以降で最も高い水準になっている。物価上昇を織り込んだ時間当たり実質労働生産性上昇率は前年度比+0.2%で、4年連続のプラスだった(日本生産性本部「日本の労働生産性の動向2025」/数値は概要資料PDFの2ページ)。
ただしこの5,543円は、日本全体をGDPベースで割ったマクロの値だ。分子の付加価値の作り方が自社の粗利益高とは違うし、産業構成もまるごと混ざっている。「5,543円に届いていないから自社は劣っている」とは読めない。国全体の水準感を頭の隅に置く程度の使い方が妥当だと考えている。
代わりに、自社の数字は次の3つと比べるほうが判断につながる。
1. 自社の過去と比べる:前年同月と並べる。季節変動のある業種で前月と比べると、改善したのか繁忙期なのかが区別できない。
2. 社内の部門・ラインどうしで比べる:同じ定義で計算しているので、差がそのまま条件の差になる。設備なのか、段取りなのか、受注単価なのかを聞きにいける。
3. 製品群・受注区分ごとに比べる:数字が低い製品群が、価格の問題なのか工程の問題なのかを切り分ける入口になる。
外部の基準がどうしても要る場合は、水準ではなく伸び率を借りる手がある。ものづくり補助金の基本要件では、事業計画期間における付加価値額の年平均成長率を3.0%以上とすることが求められている(前掲・第20次公募要領概要版6ページ)。国が中小企業に求めている増やし方の目安として、社内目標の置き方の参考にはなる。
人時売上高・労働分配率との違い
現場で混ざりやすい3つを並べておく。どれが正しいという話ではなく、見えるものが違う。
| 指標 | 計算 | 見えること |
|---|---|---|
| 人時生産性 | 粗利益高 ÷ 総労働時間 | 1時間で自社がいくら生み出しているか |
| 人時売上高 | 売上高 ÷ 総労働時間 | 1時間でいくら売っているか。材料・外注の影響を受ける |
| 労働分配率 | 人件費 ÷ 粗利益高(付加価値額) | 生み出した分のうち、どれだけを人に配れているか |
人時生産性と労働分配率は、賃上げの話をするときに対で見ることになる。人時生産性が上がらないまま賃金だけを上げると労働分配率が上がり、いずれ利益を圧迫する。逆に人時生産性が上がっていれば、同じ労働分配率のままでも配れる額は増える。最低賃金の引上げへの備えという文脈で整理したものは2026年の最低賃金と中小企業がやることにまとめている。
中小製造業で人時生産性を上げる4つの手順
式が「粗利 ÷ 時間」である以上、上げ方は分子を増やすか分母を減らすかの二択になる。ただし順番があると考えている。
手順1:分母を減らす前に、分母の中身を見る
総労働時間を減らそうとすると、真っ先に残業の抑制やシフトの削減に向かいやすい。ただ、その前に、その時間が何に使われているかを見ておきたい。加工そのものより、段取り替え、手待ち、図面や材料を探す時間、記録の転記が積み上がっていることは珍しくない。この部分は減らしても出来高が落ちない。逆に、加工時間を削れば出来高が落ちて分子も減る。削って良い時間と、削ると分子まで落ちる時間を先に区別するのが順番として先だ。
手順2:分子を守る(値決めと、赤字受注の可視化)
現場をいくら効率化しても、単価が原価を割っている受注が混ざっていると、その工程は働くほど分子が減る。人時生産性が低い製品群を見つけたとき、原因が工程ではなく価格にあることは実際にある。見積もりの時間単価が実態から離れていないかは、加工費レートの出し方で確認できる。
手順3:手を入れる工程を1つに絞る
全工程を一斉に改善する計画は、たいてい途中で止まる。人時生産性を製品群やラインで分けて出しておくと、どこが低いかは数字で示せる。その中から、頻度が高く、かつ手を入れやすい工程を1つ選ぶ。1つ終わってから次に移るほうが、結果として速いことが多い。進め方の型としては製造業で最初に自動化する工程の選び方が近い。
手順4:同じ定義のまま、月次で測り続ける
改善の効果は、単月では受注の波に埋もれる。3か月から6か月、同じ定義のまま並べて初めて傾向が見える。途中で分母の範囲を変えると比較が切れるので、定義を変えたくなったら、変更日を記録して前後を分けて持つほうがいい。効果の測り方そのものは業務改善の費用対効果の測り方で整理している。
月次で回すための集計の作り方
人時生産性が続かない理由は、たいてい「毎月集めるのが大変だから」だ。作り込む前に、次の3つが揃うかを確認しておくと無駄が少ない。
1. 粗利が月次で締まるか:試算表が翌月の何日に出るか。ここが遅いと、指標も遅れる。
2. 労働時間が同じ単位で取れるか:勤怠から総労働時間が出るか。パート・派遣が別管理になっていないか。
3. 両者を結ぶキーがあるか:部門コードや製品群コードが、会計と勤怠で同じ名前になっているか。
3つ目でつまずく会社がいちばん多い。会計側の部門と、勤怠側の所属が別々に育っていて、突き合わせに毎月人手がかかる状態だ。この場合、指標を作り込むより先に、コードの持ち方を1本に揃えるほうが効く。最初のうちは表計算1枚で十分で、月次で並ぶことのほうが精度より優先だと考えている。
つまずきやすい3つの点
相談を受けるなかで、繰り返し出てくるものを挙げておく。
1つ目は、分母を小さく取ってしまうこと。残業やパートの時間を分母から外すと、人時生産性は上がる。ただし上がったのは数字だけで、現場は何も変わっていない。良く見える定義を選びたくなったときは、たいてい定義のほうを疑ったほうがいい。
2つ目は、人を減らして分子まで落とすこと。時間を削れば分母は確実に減るが、削った時間が出来高を生んでいた時間なら、分子も一緒に減る。人時生産性が横ばいのまま、売上と粗利だけが縮む形になりやすい。
3つ目は、途中で定義を変えること。間接部門を入れたり外したり、賞与の月だけ人件費の扱いを変えたりすると、時系列が意味を持たなくなる。指標は、正確であることより、同じ物差しであり続けることのほうが大事だと考えている。
まとめ
人時生産性は、粗利益高(付加価値額)を総労働時間で割った、1時間あたりいくら生み出したかを示す数字だ。売上ではなく粗利で、人数ではなく時間で見るところに意味がある。
計算そのものは電卓で足りる。先に決めるべきなのは、分子を粗利益高・限界利益・付加価値額のどれで取るか、分母に間接部門を入れるかどうかで、これを毎月変えないことが前提になる。出てきた数字は、外部の水準に当てるより、自社の前年同月・部門間・製品群ごとの3つと比べるほうが次の手につながる。
上げるときは、分母の中身(段取り・手待ち・探す時間)を見てから削る、単価が割れている受注を先に見つける、工程を1つに絞る、同じ定義で測り続ける。この順番で回すのが、いちばん無理が少ないと考えている。
よくある質問
人時生産性の計算式は?
人時生産性=粗利益高(付加価値額)÷ 総労働時間、で計算する。単位は円/時間になる。分子を売上高ではなく粗利益高に置くのがこの指標の要点で、材料費や外注費を多く使う会社でも「自社が生み出した分」で比べられるようにするためだ。分母の総労働時間には、正社員だけでなくパート・アルバイト・派遣の時間と、残業時間も入れる。ここを抜くと数字が実態より良く出てしまう。
人時生産性の目安はどれくらいですか?
自社が目指す水準として使える公的な業種別の目安は見つけられなかったため、この記事では目安額を書いていない。参考になるマクロの数字としては、日本生産性本部の集計で2024年度の日本の時間当たり名目労働生産性(就業1時間当たり付加価値額)が5,543円だが、これは国全体をGDPベースで割った値で、分子の作り方が自社の粗利益高とは異なる。自社の数字を評価するときは、外部の水準に当てるより、自社の前年同月・部門間・製品群ごとの3つで比べるほうが判断につながりやすい。
人時生産性と労働生産性は違うものですか?
考え方は同じで、割る対象が違う。労働生産性は「付加価値額 ÷ 人数」で表されることが多く、人時生産性は同じ付加価値額を「時間」で割る。人数で割ると、短時間勤務の人が増えたときに数字が下がって見えるが、時間で割ればその影響を受けない。パート比率が高い職場や、残業の増減が大きい職場では、時間で割るほうが実態に近い数字になる。
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SalesDockは、経営・営業・業務・データをつなぎ、現場で回る事業基盤づくりを支援している。粗利と労働時間が突き合わせられる状態になっているか、まず現状を診断してみてほしい。
無料で診断する →泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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