生産管理システム 作り方|自社で組める範囲と外注に移す線
この記事は生産管理の仕組みを自社で組む範囲と、外注・パッケージへ移す判断点だけを扱います。 Excel業務全般をシステムへ移す判断は「エクセル業務のシステム化|残す表と移す表の分け方と進め方」、製品を選ぶ前の要件は「生産管理システム 選び方」で扱っています。
この記事のポイント
自作の価値は完成品ではなく、作る過程で管理単位と粒度が言葉になることにある。 だから後でパッケージに移っても無駄にならない。組めるのは指示台帳・進捗ボード・必要量の逆算の3つまで。 同時編集・在庫の整合・原価の按分・変更の履歴の4つに触れたら、 延命せずに移す判断をしたほうがよい。
「生産管理システムを自分で作れますか」と聞かれると、 答えは「範囲を限れば作れます。そして作ったほうがいい場合があります」になります。 理由は完成品が手に入るからではなく、作る過程でしか決まらないことがあるからです。
何を1件として数えるのか。誰がいつ状態を更新するのか。この2つは、 会議で議論しても決まりません。表を作って実際に運用してみると、 3日で決まります。決まっていないと表が埋まらないからです。
そしてここで決まった単位と粒度は、後でパッケージへ移るときの要件そのものになります。 自作は捨てる作業ではなく、要件を作る作業として位置づけられます。
多くの会社は「作る」の手前で止まっている
中小企業庁の「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」では、 中小企業のデジタル化の取組段階として、段階2 (アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態)が57.3%、段階1(紙や口頭による業務が中心で、 デジタル化が図られていない状態)が15.4%と示されています(n=12,215)。
段階2は、道具はあるが業務の形が移りきっていない状態です。 ここにいる会社が最初に必要なのは高機能なシステムではなく、いま口頭とホワイトボードで流れている情報を、いちど文字にすることです。 その用途では、スプレッドシートが最も速い道具になります。
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業務・判断・道具の3層で整理する30項目のチェックリストと、90日の進め方。自作する範囲を決めるところから使えます
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この順番は入れ替えられません。前の部品が後ろの部品の参照先になるためです。
部品1:指示台帳(1件を数える単位を決める)
1行が1件になる表です。作るのは簡単ですが、決めるのは簡単ではありません。1行が何を指すのかを決める必要があります。受注1件で1行か、 製造指示1件で1行か。1つの受注が複数の指示に割れるなら、 割れた側で1行にして、受注番号を列に持たせます。
最小の列構成は次のとおりです。これ以上増やさないほうが続きます。
| 列 | 入れるもの | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 指示番号 | 連番 | いつ発番するか(引き合い時か受注確定時か) |
| 受注番号 | 紐づく受注 | 複数指示を1受注に合算して見るための鍵 |
| 品番・数量 | 作るもの | 新規品番を作る条件(材質・寸法が変わったら新規など) |
| 約束納期 | 客に言った日 | これを書き換えたら履歴を残す(後述) |
| 社内納期 | 現場に渡す日 | 約束納期と分けて持つ。同じ列にしない |
| 状態 | 未着手/進行中/完了 | 更新する人と更新のタイミング |
約束納期と社内納期を別列にするのが要点です。同じ列にすると、 現場に余裕を持たせるための前倒しと、客への約束が区別できなくなり、 遅れているのかどうかが分からなくなります。
部品2:進捗ボード(誰がいつ状態を更新するか)
部品1の「状態」列を、見える形に並べ替えたものです。新しい表を作る必要はなく、 同じ台帳を工程別・納期別に絞り込んで表示すれば足ります。データを二重に持たないのが自作を長持ちさせる条件です。
難所は表示ではなく更新です。「気づいた人が更新する」は必ず止まります。 決めるのは、更新する人(工程の担当者本人が現実的)、 更新のタイミング(工程の完了時)、更新しない場合に誰が気づくか(朝の会議で空欄を見る)の3つです。
粒度は最初は工程の完了だけにします。開始時刻や中断時間まで取ろうとすると、 入力が重くなって空欄が増え、ボードが信用されなくなります。 空欄のあるボードは、ないボードより悪い結果を招きます。見て判断した人が間違うからです。
部品3:必要量の逆算(在庫と発注残から不足を出す)
部品1と2が2〜3週間続いてから着手します。やることは、 台帳の未完了行から必要な材料量を積み上げ、そこから在庫と発注残を引いて、 不足と必要な発注日を出すことです。
自作で成立させるための割り切りが2つあります。 1つは材料構成を1階層に限ること。部品の中に部品が入る多段構成を 表計算で持つと、参照が追えなくなります。多段が必要なら、 その時点でこの記事の後半にある線に触れています。
もう1つは引当をしないこと。「この在庫はこの案件用に取っておく」を 表計算で管理し始めると、キャンセルや変更のたびに解放漏れが起きて、 在庫が実態と合わなくなります。不足の計算だけに使い、 現物の割り当ては現場の判断に残すほうが安全です。
在庫の差異が起きる構造は「製造業の棚卸しで在庫が合わない原因と対策」で扱っています。
自作では持ちきれなくなる4つの線
どれも工夫すれば延命できます。問題は、延命のための工数が増え続け、 作った本人しか触れない状態に向かうことです。線に触れた時点で移す判断をするほうが、作り込んでから捨てるより安く済みます。
| 線 | 触れたと分かる症状 | なぜ自作で苦しいか |
|---|---|---|
| 1. 同時編集 | 上書き事故が月に何度も起きる。編集中に他の人が待っている | 誰がどの行を触ってよいかを、表計算側で制御しきれない |
| 2. 在庫の整合 | 入出庫の記録と現物が合わず、突き合わせに毎月人手がかかる | 取り消しや修正のときに、前後の数を自動で辿り直せない |
| 3. 原価の按分 | 1つの購入や1回の段取りを、複数案件へ割り振る必要が出た | 按分の基準を変えると過去の集計も変わり、追跡できなくなる |
| 4. 変更の履歴 | 「誰がいつ納期を変えたか」を追う必要が出た | 上書きが基本の道具では、変更前の値が残らない |
4番目は軽く見られがちですが、実務では重い線です。納期遅れの原因を調べるとき、いつ誰が約束を動かしたかが分からないと、 原因が現場の遅れなのか受注時の無理な約束なのか判別できません。 この判別ができない会社は、毎回「現場が頑張る」で終わります。
線に触れる前にやっておくと移行が楽になること
- 計算の根拠を別シートに文章で書く。数式を読めば分かる、は移行時に通用しない
- 入れ子の関数を作らず、途中の値を列に出す。後から人が検算できる形にしておく
- 月に一度、別の人が同じ結果を手で確かめる。作った人以外が中身を知っている状態を保つ
- 列の意味を1行ずつ書き残す。これがそのまま移行先への要件になる
同資料では、小規模事業者の経営リテラシーへの取組状況として 「ノウハウの蓄積・共有」が48.8%(n=7,424)と示されています。 注記では、業務上のノウハウ(技術・知識・経験)が特定の従業員に依存しないよう、 組織としてノウハウの蓄積・共有に取り組むことを指すと説明されています。 自作した仕組みも同じ扱いが必要です。作れる人が1人しかいない仕組みは、属人化を道具に置き換えただけになります。
自作と外注は二択ではない
実務でいちばん多い着地は、全部を移すのではなく役割を分ける形です。台帳と在庫の整合はシステム側に持たせ、 現場が毎日見る表や社内向けの集計はスプレッドシートに残す。 こうすると、変更が多い部分を自社で直せる状態が保てます。
この線引きを先に決めておくと、見積もりを取るときの条件が明確になります。 依頼する範囲が「全部」だと金額の幅が大きく開きますが、 「台帳と在庫の整合だけ」だと各社の見積もりが比べられる形になります。 比較の準備は「生産管理システム 選び方」、移した後に使われなくなる過程は「生産管理システム 導入 失敗の原因」で扱いました。
出典
- 中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」(PDF):p.43 図1「中小企業のデジタル化の取組段階」(n=12,215/帝国データバンク調査)、p.27 図2「経営リテラシーへの取組状況」(デロイト トーマツ調査・小規模事業者)
- 中小企業庁「2026年版『中小企業白書』全文」
- 経済産業省「2026年版中小企業白書・小規模企業白書が閣議決定されました」
※ 本記事は公開されている資料をもとにした一般的な整理です。引用した調査結果は 調査時点・対象・設問の定義に依存し、業種や規模によって当てはまり方が変わります。 3つの部品と4つの線の区分は、当社が支援の現場で観察した傾向を整理したものであり、 統計的に検証された区分ではありません。特定の製品・サービスの推奨や評価を 目的としたものではなく、費用や仕様には触れていません。
よくある質問
生産管理の仕組みを自社で作ってもよいのですか?
範囲を限れば有効です。自作の価値は完成品ではなく、作る過程で「何を、どの単位で、誰が決めるか」が言葉になることにあります。指示台帳(1件を数える単位を決める)、進捗ボード(誰がいつ状態を更新するか)、必要量の逆算(在庫と発注残から不足を出す)の3つは、スプレッドシートの範囲で組めます。ここで決まった単位と粒度は、後でパッケージへ移るときの要件そのものになるため、捨てる作業にはなりません。
自作から外注やパッケージへ移すのはどんなときですか?
4つの線のどれかに触れたときです。(1)同じ表を複数人が同時に更新して上書き事故が起きる、(2)在庫の数が入出庫の記録と合わなくなり、突き合わせに人手がかかる、(3)1つの費用を複数の案件へ按分する必要が出る、(4)誰がいつ何を変えたかを追う必要が出る。どれも、表計算の作りを工夫して延命できますが、延命のための工数が増え続けます。線に触れた時点で移行を検討するのが、作り込みすぎて捨てられなくなるより安全です。
自作するとブラックボックスになりませんか?
作る人を1人にすると必ずなります。防ぐ方法は技術ではなく運用側にあり、計算の根拠を別のシートに書いておく、複雑な関数を入れ子にせず途中の列に分けて出す、月に一度は別の人が同じ結果を手計算で確認する、の3つが実務的です。2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要では、小規模事業者の「ノウハウの蓄積・共有」への取組が48.8%(n=7,424)と示されており、注記では業務上のノウハウが特定の従業員に依存しないよう組織として取り組むことを指すと説明されています。自作物も同じ扱いが必要です。
どの部品から作るべきですか?
指示台帳からです。1件を数える単位(受注番号か製造指示番号か)が決まらないと、進捗も必要量も集計する先がありません。台帳ができたら進捗の状態列を足し、それが2〜3週間続いてから必要量の逆算に進みます。逆に必要量の計算から始めると、参照する台帳の作りが後から変わり、組んだ数式を作り直すことになります。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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