不動産仲介 営業仕組み化 の進め方|90日を3期に分けて何を決めるか
この記事のポイント
営業の仕組み化が止まるのは、範囲を決めずに全工程へ同時に手を付けるから。90日を区切りに進めるなら、第1期で触らない工程を外し、第2期で1本の流れだけを型にし、第3期で回す人と点検日を決める。決めるのは手順書ではなく、範囲と担当と点検日。
「営業を仕組み化したい」という相談は、たいてい同じ形で始まります。反響の対応が担当者ごとに違う、追客が途中で切れている、案件の状況は聞かないと分からない。だから型を作りたい——ここまでは、社長も営業責任者もほぼ同じことを言います。
そして多くの場合、次に起きるのは手順書づくりです。反響対応のフロー、追客の間隔、内見後の連絡、上長への報告。書き出すと項目は数十になり、書き終える前に繁忙期が来ます。3か月後に残っているのは、途中まで書かれたドキュメントと「やろうとしたが進まなかった」という感触です。
この記事では、90日という区切りで進める場合の割り方を書きます。手順書の書き方ではありません。各期に何を決めておくかの話です。決めごとが先にないと、手順書はいくら書いても運用に入りません。
仕組み化が止まるのは、範囲を決めずに始めるから
仲介の営業は工程が多いうえ、工程ごとに関わる相手が違います。反響は見込み客、内見は同行、契約準備は金融機関や司法書士、報告は社内。それぞれに固有の段取りがあり、どこか1つを変えると前後がずれます。
この状態で「営業全体を仕組みにする」と決めると、着手点が定まりません。定まらないので、手を付けやすいところから始まります。手を付けやすいところは、たいてい効果が薄いところです。そして日常業務に押し戻される。
止まる原因を意欲や忙しさに置くと、打ち手は「もっと時間を作る」しかなくなります。実際に効くのは逆で、触る範囲を狭めて、90日のあいだに一度は回りきる大きさにすることです。回りきった型は、次の90日で広げられます。回りきらなかった型は、広げる判断ができません。
90日を3期に分ける——各期の役割
90日を等分するのではなく、性質の違う3つの期として扱います。第1期は決める期間、第2期は作る期間、第3期は回して直す期間です。
| 期 | この期で決めること | 終わりの合図 |
|---|---|---|
| 第1期 1〜30日 | 今回触らない工程/型にする1本の流れ/判断の持ち主 | 対象外の工程が紙に書かれている |
| 第2期 31〜60日 | その流れの状態の呼び名/状態を変える人/記録の置き場 | 実案件が1件、最後まで型で流れた |
| 第3期 61〜90日 | 型を回す担当/点検する日/型を変えるときの手続き | 社長が口頭で聞かなくても状況が分かる |
各期の終わりの合図を、日数ではなく状態で書いているのが要点です。日数で区切ると、できていないまま次へ進みます。状態で区切ると、遅れていることが分かります。
第1期(1〜30日): 触らない工程を先に外す
最初の30日でやることは、対象を絞ることだけです。作業としては地味ですが、ここを飛ばすと第2期が発散します。
手順は3つです。まず、営業の工程を紙に並べます。反響の受け、一次返信、追客、内見の調整、内見後の連絡、申込、契約準備、社内報告。会社によって名前は違いますが、だいたい8〜12個に収まります。次に、今回は触らないものに線を引きます。判断の基準は「担当者が変わっても事故が起きていない工程」です。事故が起きていない工程は、いま型がなくても回っています。
残った工程のうち、1本だけを選びます。選び方は、止まったときに売上への影響が一番早く出るところです。仲介であれば反響から初回接触までの区間か、追客の再接触の区間のどちらかになることが多いです。ここを選んだら、他は第2期のあいだ手を付けないと決めます。
最後に、判断の持ち主を1人決めます。型の内容でもめたときに決める人です。合議にすると決まらず、社長が兼ねると細部まで社長に集まります。営業責任者が持つのが自然ですが、誰が持つかを言葉にしておくことのほうが重要です。
なお、この「絞る」作業は業務全体の棚卸しとは別物です。会社全体の工程を構造として整理する話は「不動産会社の業務効率化は『構造化』から始める」で扱っています。90日で回すなら、棚卸しは営業の1本に限定します。
第2期(31〜60日): 1本の流れを、状態の名前で型にする
第2期で作るのは、手順書ではなく状態の一覧です。選んだ1本の流れを、案件が通る状態に分解して名前を付けます。たとえば追客の区間なら「一次接触済」「条件を聞けた」「物件を提示した」「反応待ち」「再接触の日を決めた」。粒度は5つ前後で足ります。
状態に名前が付くと、3つのことが同時に決まります。いま何件がどこにいるか、次に誰が何をするか、どこで詰まっているか。手順書は「正しいやり方」を書いたもので、読まれなければ何も起きません。状態の一覧は、案件を動かすたびに触るので、放置されにくいという性質があります。
決めることは3つです。
状態の呼び名——社内で使っている言葉を優先します。きれいな用語に置き換えると、口頭のやりとりと台帳の表記がずれます。ずれた時点で、台帳のほうが使われなくなります。
状態を変える人——「誰が動かすと状態が進むのか」を1状態につき1人にします。複数人が動かせる状態は、結果として誰も動かしません。
記録の置き場——スプレッドシートでも既存のシステムでも構いません。決めるべきは場所を1つにすることだけです。2か所に置くと、どちらが正なのかを確認する作業が毎回発生します。
第2期の終わりの合図は、実案件が1件、最後まで型の上を流れることです。全件ではありません。1件流れれば、抜けている状態や、書いたのに使われない欄が分かります。ここで見つかった抜けは、第3期に持ち込まず、その場で直します。
なお、記録の置き場を新しいツールにするかどうかは、この時点では決めなくて構いません。入力が続く形になっていないままツールを増やすと、使われない画面が1つ増えます。入力が止まる構造については「不動産 crm 使われない理由」で整理しています。
第3期(61〜90日): 回す人と点検日を決める
第3期は、作ったものを人の運用に載せる期間です。ここで決めるのも3つです。
1つ目は、型を回す担当です。状態を動かすのは各営業ですが、止まっている案件を見つけて声をかける役が別に必要になります。この役がいないと、状態が古いまま並びます。専任である必要はなく、営業責任者が週に一度見る形で足ります。
2つ目は、点検日です。曜日と時刻を固定します。「余裕のあるときに見る」は、繁忙期に消えます。見るものも決めておきます。状態が7日以上動いていない案件、次の行動日が空欄の案件、この2つだけで十分です。
3つ目は、型を変えるときの手続きです。運用が始まると必ず変更要望が出ます。誰に言えば変わるのか、いつ反映されるのかが決まっていないと、現場は型の外で工夫を始めます。外での工夫が増えると、型は形だけ残って中身が空になります。この形骸化を避ける決めごとについては「不動産 営業マニュアル 形骸化 の直し方」に分けて書きました。
90日で終わらせないための2つの決めごと
90日は、営業の一部が型になるだけの長さです。ここで終わりにすると、半年後には元に戻っています。続けるために、期間の途中で2つ決めておきます。
1つは、次の90日で広げる工程を先に選んでおくことです。第1期で外した工程のうち、次に触るものを1つ指定します。指定しておくと、第3期の終わりに「次はどうする」という議論が起きません。議論が起きた時点で、たいてい止まります。
もう1つは、誰が抜けても回るかを1回試すことです。型を作った本人が休んだ週に、状態の更新が止まるなら、それは型ではなく本人の作業です。仕組み化の目的は工程を速くすることではなく、人が入れ替わっても同じ手数で回ることにあります。属人化が売上に効く仕組みについては「不動産営業の属人化が危険な理由」で扱っています。
よくある止まり方と、そのときの戻り先
| 起きていること | 戻り先 |
|---|---|
| 手順書を書いているが終わらない | 第1期。範囲が広い。触らない工程を紙に書き出す |
| 台帳を作ったが更新されない | 第2期。状態を変える人が1人に決まっていない |
| 状況把握のために社長が個別に聞いている | 第3期。点検日と見る項目が決まっていない |
| 現場が型の外で独自に工夫している | 第3期。型を変える手続きが無い |
| 担当が休むと状態が止まる | 第2期。型ではなく本人の作業になっている |
どの止まり方でも、戻り先は前の期です。先に進めて解決することはほとんどありません。範囲か担当か点検日のどれかが決まっていない、という形に必ず還元されます。
まとめ
営業の仕組み化が90日で止まるのは、意欲や時間の問題ではなく、範囲を決めずに全工程へ同時に手を付けるからです。工程が多い仲介の営業では、全部を同時に型にしようとすると、どれも一度も回りきりません。
90日を区切りにするなら、第1期で触らない工程を外して1本に絞り、第2期でその流れを状態の名前に分解して1件流し、第3期で回す担当と点検日と変更手続きを決める。各期の終わりを日数ではなく状態で判定するのが要点です。
作るのは手順書ではなく決めごとです。範囲、判断の持ち主、状態の呼び名、状態を変える人、記録の置き場、点検日、変更の手続き。この7つが言葉になっていれば、手順書は後から書けます。逆に、この7つが決まっていない手順書は、書き終えても運用に入りません。
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よくある質問
営業の仕組み化は、どこから手を付けるのが早いですか?
決めるのは着手する場所ではなく、着手しない場所からです。仲介の営業には反響対応、追客、内見、契約準備、報告と工程がいくつもあり、全部を同時に型にしようとすると、どれも中途半端なまま日常業務に戻ります。最初の30日でやることは、今回は触らない工程を明文化して外すこと。残った1本の流れだけを次の30日で型にします。範囲が狭いほど、90日のあいだに一度は回りきります。
90日という区切りには根拠がありますか?
成果が出るまでの期間としての根拠はありません。区切りとして扱っているだけです。理由は2つあります。1つは、仲介の営業は反響から成約までの間隔が長く、1か月では型が一度も回りきらないこと。もう1つは、半年や1年を単位にすると、途中で人の異動や繁忙期が入って当初の前提が変わることです。3か月は「一度回して、直して、もう一度回す」がぎりぎり入る長さとして置いています。
途中で止まってしまった場合はどう戻せばよいですか?
止まった工程を再開するのではなく、第1期に戻って範囲を狭めます。止まる原因の多くは、型が現場の手数より多くを求めていることです。入力欄が多い、報告の回数が多い、判断のたびに承認が要る。この状態は説明を足しても戻りません。求める手数を減らして、残った最小の形をもう一度回します。範囲を狭めることは後退ではなく、回る形を見つける作業です。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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