管理会計システムを入れる前に決める3点|会計ソフト・表計算・BIの分担表
道具を比べる前に、数字の置き場所を決める
管理会計システムを選ぶ前の結論
「管理会計システム」で調べている段階の困りごとは、たいてい集計の手間ではなく、出てきた数字を信用できないことにあります。信用を落としているのは道具ではなく、同じ数字の入力先が複数あることです。
- 管理会計システムが自動化するのは集計であって、どの単位で利益を見るかは自社で決める
- 選ぶ前に、数字の正本の場所・税抜と税込を変換する場所・確定値と見込値の置き場所を決める
- 入力する人が3人以内で同じ数字を2箇所に持っていないなら、まだ表計算で足りる
月次を締めてから2週間経っても案件別の粗利が出てこない。経理の数字と営業の数字が合わない。誰かが直したはずの数字が、翌月には元に戻っている。ここまで来ると、管理会計システムを探し始めます。
ただ、道具を入れ替えても解決しない部分があります。この記事では、会計ソフト・業務システム・表計算・BIの分担をはっきりさせたうえで、システムを選ぶ前に決めておく3点を書きます。利益がどの単位で残っているかから確認したい場合は、先に利益が残らない会社の数字管理(粗利・原価をどの単位で見るか)を読むと、この記事の前提が揃います。
管理会計システムが引き受けるのは集計で、管理単位の決定ではない
管理会計には、決算書のような決まった様式がありません。何を単位に利益を見るか(案件・部門・商品・顧客・担当者)を自社で決めて、その単位で数字を集めます。ここが会計ソフトとの一番の違いです。
システムは、決めた単位で足し算をする作業と、その結果を毎月同じ形で出す作業を引き受けます。逆に言えば、単位が決まっていない状態で導入すると、勘定科目を人数比で部門へ割った画面ができ、見ても打ち手が決まらない数字が並びます。最小の管理単位をまだ決めていないなら、中小企業の管理会計の始め方(部門・商品・顧客の最小管理単位を決める)を先に通してください。
4つの道具の分担表
「管理会計システム」という1つの製品カテゴリを買うより、いま持っている道具の担当を決め直すほうが早いことが多いです。中小企業で実際に併存している4つを、入る数字・入力する人・向く判断・限界で並べます。
| 道具 | 入る数字 | 入力する人 | 向く判断 | 限界 |
|---|---|---|---|---|
| 会計ソフト | 仕訳、勘定科目、法人単位の損益 | 経理・税理士 | 納税、決算、月次の着地 | 案件別・顧客別の粗利は科目からは復元できない |
| 業務システム (販売管理・案件管理) | 受注、原価、進捗、請求 | 営業・現場 | 案件別の粗利、停滞している案件 | 入力されない項目は永久に空欄。入力が続くかで決まる |
| 表計算 | 集計、配賦、シミュレーション | 管理部門・社長 | 単位や配賦ルールを試している段階 | 同時編集の上書き、変更履歴、権限 |
| BI・ダッシュボード | 他の道具から読んだ結果 | (入力しない) | 毎月同じ形で見る、異常の発見 | 元データが揃っていない不備は表示では直らない |
この表で一番間違えやすいのはBIです。画面がきれいになると数字が整ったように見えますが、BIは読むだけの道具で、元の数字が2箇所にある問題は解決しません。BIを買わずに見える形を作る手順はBIツールなしで経営ダッシュボードを作る方法にまとめています。
選ぶ前に決める3点
次の3つは、どの製品を選んでも自社で決める必要があります。決めずに導入すると、導入後に同じ話をやり直すことになります。
1. その数字の正本をどこに置くか
案件の受注額、原価、入金予定。それぞれについて「ここに書いたものが正しい」と言える置き場所を1つに決めます。2箇所に書けるようにした瞬間、どちらが新しいかを人が覚えていないと判断できなくなります。
SalesDockでは、案件の情報を登録する場所を1つに決めていて、経営ダッシュボード側では書き戻しをしません。画面から直接値を直せるようにすると便利ですが、直した値が元データへ返らないため、翌月に元の値へ戻ります。実際にこれが起きると、数字ではなく仕組みのほうが信用されなくなります。
2. 税抜と税込を変換する場所を1箇所に閉じる
消費税の課税事業者は、所得税または法人税の所得金額の計算にあたって、税抜経理方式と税込経理方式のどちらを選んでもよいとされています(国税庁 タックスアンサー No.6375 税抜経理方式または税込経理方式による経理処理、令和7年4月1日現在法令等)。
問題になるのは、どちらを選ぶかより、変換をどこでやるかです。案件台帳は税抜、請求書は税込、社長が見る画面は税込、という会社は珍しくありません。ここで変換の掛け算を2箇所以上に書くと、画面ごとに違う売上が出ます。データは片方の方式だけで持ち、表示する直前に1箇所だけで変換する。これで、後から金額のずれを追いかける必要がなくなります。
3. 確定値と見込値を同じ列に混ぜない
締めが終わった月の実績と、まだ動く見込みの月を同じ列に置くと、合計だけが独り歩きします。列を分ける、あるいは月ごとに「確定 / 見込」の状態を持たせて、確定した月は見込みの計算を上書きしない形にします。
見込みの精度そのものを上げたい場合は、案件単位でずれを残す方法を営業予測の精度を案件別に検証する方法に書いています。
表計算のままでよい会社と、移したほうがよい会社
| 確認すること | 表計算のままでよい | システムへ移す |
|---|---|---|
| 数字を入力する人 | 3人以内 | 4人以上、または拠点が分かれている |
| 同じ数字の入力先 | 1箇所 | 2箇所以上あり、突き合わせを人がやっている |
| 締めから数字が出るまで | 3営業日以内 | 2週間かかる、または月によって変わる |
| 変更の履歴 | 直した人と理由が分かる | 誰がいつ直したか分からない |
| 権限 | 見せたくない列がない | 原価や個人別の数字を分けて見せる必要がある |
右側が2つ以上当てはまるなら、道具を替える価値があります。1つだけなら、まずその1つを直したほうが安く済みます。とくに「同じ数字の入力先が2箇所」は、システムを入れても入力先が3箇所に増えるだけで終わることがあります。
導入後に壊れやすい3つの場面
- 画面で直接直す:表示側で数字を書き換えられると、元データとの差が誰にも見えなくなる。読み取り専用にして、直すときは入力元へ戻る
- 入力担当が決まっていない:「気づいた人が入れる」は、繁忙期に必ず止まる。案件を登録する人と、原価を確定する人を名前で決める
- 移行時に過去分を全部入れようとする:過去3年を入れ直す作業で疲れて運用が始まらない。当期の途中から始めて、前期は会計ソフトの数字を参照するだけにする
効果は「締めてから数字が出るまでの日数」で測る
導入の効果を売上や利益で測ろうとすると、他の要因と混ざって判定できません。次の4項目を導入前に1回測っておくと、3ヶ月後に比較できます。
- 月次を締めてから、案件別の粗利が出るまでの営業日数
- 同じ数字を人が2箇所へ転記している件数
- 数字の食い違いについて、月に何回問い合わせが発生したか
- その数字を見て決めた打ち手の件数(見ているだけなら0と書く)
4つ目まで測るのは、日数が縮んでも判断が増えていないなら、それは早くなっただけで効果ではないからです。
来週の一歩:数字の在りかを1枚に書き出す
製品比較の前に、A4を1枚使って次を書き出します。受注額・原価・入金予定・販管費のそれぞれについて、いま入力されている場所、入力している人、直せる人、他の場所へ転記しているかどうか。
この1枚を書くと、たいてい2箇所以上に同じ数字がある項目が2〜3個見つかります。その項目を先に1箇所へ寄せてから製品を比べると、必要な機能がかなり減ります。月次そのものが遅い場合は、月次決算を早期化する進行設計と合わせて確認してください。
1枚を書いたうえで、どこへ寄せるかの判断が分かれる場合は、オンライン相談で対象業務と現在の入出力を持ち寄って整理することもできます。製品の選定そのものを代行するものではありません。
よくある質問
管理会計システムと会計ソフトは何が違いますか?
会計ソフトは仕訳と決算書のための道具で、勘定科目と法人単位の数字を正しく残すことが目的です。管理会計システムは、案件別・部門別・商品別など自社が決めた単位で粗利や進捗を見るための道具です。単位を決めるのは会計ソフトでも管理会計システムでもなく自社なので、単位が決まっていない状態で導入すると、勘定科目をそのまま部門へ割った画面ができます。
スプレッドシートのままでは駄目ですか?
駄目ではありません。入力する人が3人以内で、同じ数字を2箇所に書いていないなら、表計算でも判断はできます。移行を考える目安は、入力者が増えて同時編集の上書きが起き始めたとき、月次の締めから数字が出るまでが長くなったとき、誰かが手で直した値と元の値の区別が付かなくなったときです。
導入したのに前より数字が信用されなくなりました。何を疑えばよいですか?
同じ数字の入力先が2つある状態をまず疑ってください。画面から直接値を書き換えられる設計になっていると、元データと画面のどちらが正しいか分からなくなります。入力先を1つに戻し、画面は読み取り専用にするだけで、多くの場合は信用が戻ります。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI内製化(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
代表者情報を読む →この記事の数値について
本文中に一次資料へのリンクがある数値は、リンク先を出典としています。 リンクのない業務設計、判断基準、実務上の目安は、SalesDockが累計40社以上の支援と自社運用で得た知見を一般化したものです。 個別企業での成果を保証する数値ではなく、条件によって変わります。