投資家の追客を仕組みにする|買付が入るまでの接触設計
既存記事との違い:「追客の仕組み化」と「追客データを資産にする」は、実需の買主を前提にした追客設計です。この記事が扱うのは買主が投資家(個人・資産管理法人)の場合で、買う対象が1件に絞られていない点、法人名義が入る点、買付から決済まで融資の進捗が挟まる点が違います。その差分だけを整理しました。
この記事のポイント
投資家の追客で記録するのは、温度感ではなく購入の基準です。エリア・価格帯・利回りの下限・構造と築年・法人名義かどうか。この5項目が埋まっていれば、条件に合う物件が出た日に、誰でも送る相手を選べます。
収益物件の営業で「あの人、まだ買ってないんですよね」という会話をよく聞きます。半年前に問い合わせがあって、資料を送って、それきりになっている人。
この状態が発生する原因は、追客の努力不足ではありません。その人が何を買いたいのかを記録していないからです。基準が分からないので、新しい物件が出たときに送る相手として思い出せない。結果、接点が切れます。
実需なら「A様は3LDKで駅徒歩10分以内」と覚えていられます。投資家の場合は条件の軸が多く、しかも人によって重視する軸が違うので、記憶では持てません。
記録するのは温度感ではなく、購入の基準
顧客の記録欄に「検討中」「温度高い」と書いてある会社は多いのですが、この情報は3ヶ月経つと使えなくなります。代わりに残すのは、次の5項目です。
| 項目 | なぜ必要か |
|---|---|
| 1. 対象エリア | 市区町村まで落とす。「関東」では絞り込みに使えない |
| 2. 価格帯の上限・下限 | 下限も聞いておく。小さすぎる物件は対象外という人が多い |
| 3. 利回りの下限 | あわせて「表面か実質か」も記録する。ここがずれると送る物件がずれる |
| 4. 構造・築年の許容範囲 | 融資の年数に関わるため、ここに明確な線を持っている人が多い |
| 5. 名義(個人/法人) | 法人名義の場合、決裁の進み方も資金調達の形も変わる |
この5項目のいいところは、時間が経っても古くならないことです。温度感は1ヶ月で変わりますが、購入基準はそう変わりません。だから半年前の記録でも、そのまま絞り込みに使えます。
なお、5項目を初回の問い合わせで全部聞き出す必要はありません。書かれていた項目だけ埋めて、空欄は空欄のままにしておきます。空欄が多い相手は、定期送付では全件を送る対象になります。反響の一次仕分けとの関係は「楽待の反響をさばく順番」で整理しました。
定期送付と、条件一致の個別連絡を分ける
接触の形は2本立てにします。片方だけだと必ず穴が出ます。
定期送付(月1〜2回・全員に同じもの)
新しく扱い始めた物件の一覧。1件1行で、価格・エリア・利回り・構造築年が並んでいる形にします。長い文章は不要です。目的は「まだ物件を扱っている」ことを伝えて接点を保つことなので、開いてもらえれば十分です。
条件一致の個別連絡(物件が出たとき)
記録した5項目に合致する相手にだけ、その物件の資料を送ります。「◯◯様の条件に合うと思いご連絡しました」と、なぜ送ったかを1行書く。ここまでやると、返信率が明らかに変わります。
定期送付だけだと、条件に合う物件が出たときの初動が遅れます。個別連絡だけだと、物件が出ない期間に接点が切れます。両方あって初めて機能します。
買付が入ってからの進捗を、担当者の頭から出す
投資家の案件は、買付が入ってから決済までに融資の工程が挟まります。ここが実需と違って、案件ごとに進み方がばらつく部分です。
実務で困るのは、この進捗が営業担当の頭の中にしかないことです。担当が休んだ日に売主から「どうなってますか」と聞かれても、誰も答えられません。持つべきなのは、次のような節目の日付です。
□ 買付を受領した日
□ 融資の事前審査を申し込んだ日/結果が出た日
□ 売買契約の締結日
□ 融資特約が付いている場合、その期限日
□ 本審査の申込日/承認日
□ 決済の予定日
特に重要なのが、融資特約の期限と本審査の進捗の関係です。期限が近いのに本審査の結果が出ていない案件は、先に気づけば手を打てます。気づくのが期限の前日だと、できることが限られます。
この一覧は、専用のシステムでなくても持てます。案件の一覧に列を6つ足すだけで、進捗が誰にでも見える状態になります。この形にできていない会社のほうが、まだ多い印象です。
法人名義の場合に、追加で確認しておくこと
資産管理法人での購入は、収益物件では珍しくありません。個人の購入と違うのは、決裁の進み方です。
実質的に代表1人で決めている法人もあれば、複数の関係者の合意が要る法人もあります。ここを確認しておかないと、「持ち帰って検討します」の意味が読めません。個人の検討と同じ感覚で待っていると、他社に決まっていることがあります。
確認するのは1つだけで十分です。「この件は、どなたの了解が取れれば進められますか」。聞き方としては失礼にならず、答えも短く返ってきます。商談で決裁のルートを確認する重要性については、収益物件に限らず同じです。
規模別に見た、追客の詰まりどころ
| 規模 | 起きていること | 一歩目 |
|---|---|---|
| 中小(〜30人) | 顧客リストが営業ごとに分かれていて、会社として何人いるか分からない | 1つの表に集約して、5項目の列を作る。埋まっていない欄はそのままでよい |
| 準大手(50〜300人) | 顧客管理システムはあるが、自由記述欄に情報が入っていて絞り込めない | 5項目を選択式・数値入力の欄として作る。自由記述からの移し替えは新規案件から始める |
準大手でよく起きるのが、システムはあるのに絞り込めないという状態です。原因はほぼ自由記述で、「利回り8%以上希望」と書かれていても検索できません。数値の欄にすると、その日から絞り込みに使えます。
まとめ
投資家の追客は、気に入ってもらう活動ではなく、条件に合う物件が出たときに真っ先に届く関係を保つ活動です。だから記録するのは温度感ではなく、エリア・価格帯・利回り下限・構造築年・名義の5項目になります。
接触は、月1〜2回の定期送付と、条件一致時の個別連絡の2本立て。買付以降は融資の節目を日付で持つ。この3つがあれば、担当者が替わっても案件が止まりません。
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※ 融資特約の内容や期限は取引ごとの契約条件で定まります。本記事は業務上の進捗管理の考え方を整理したもので、契約上の判断を示すものではありません。顧客情報の取得・利用にあたっては、自社の利用目的の明示と管理体制をあわせてご確認ください。記述は当社が支援している会社の事例をもとに一般化したものです。
よくある質問
投資家の追客は、実需の追客と何が違いますか?
買う対象が1つに絞られていない点が違います。実需の買主は「自分が住む家」を探しているので、条件に合う物件を見つけて気に入ってもらう流れになります。投資家は基準を満たす物件であれば対象になるため、追客のゴールは「気に入ってもらうこと」ではなく「基準に合う物件が出たときに、真っ先に情報が届く関係を保つこと」になります。だから記録すべきなのは温度感ではなく、購入の基準そのものです。
定期接触はどれくらいの頻度がよいですか?
月1回から2回で足りると考えています。頻度を上げるより、送る中身が基準に合っているかのほうが効きます。基準に合わない物件を毎週送ると、開かれなくなります。逆に、条件に合う物件が出たときだけ個別に連絡する形にすると、物件が出ない期間に接点が切れます。定期の一斉送付と、条件に合致したときの個別連絡を分けて持つのが実務的です。
買付が入ってから決済までの進捗は、どう管理すればよいですか?
融資の状況を段階で持つのが要点です。事前審査の申込・結果、本審査の申込・結果、金銭消費貸借契約の予定日といった節目を、案件ごとに日付で残します。融資特約の期限が設定されている場合、その期限と現在の進捗の関係が見えていないと、期限直前に慌てることになります。営業担当の頭の中だけにあると、担当が休んだ日に誰も状況を答えられません。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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