不動産仲介の追客を仕組み化する方法|CRMが使われない原因と対策
この記事は不動産業界のAI活用・業務効率化 完全ガイドの一部です。全体像を知りたい方はまず完全ガイドをご覧ください。
不動産仲介の追客が止まる理由と、仕組み化の結論
追客ができない原因は営業担当の意欲ではなく、顧客情報が複数の場所に分かれていて「次にいつ誰へ連絡するか」が誰にも見えていないこと。Googleスプレッドシート1枚から始めて、件数ではなく運用の症状を見てCRMへ移行する。CRMを入れても使われなくなるのは、手入力が残る・スマホで完結しない・履歴が会社に残らない・導入後に設定を直す人がいない、の4つが主な原因になる。
- まず自社の放置率を数える。反響数・最終接触が30日以上前の件数・2回目の連絡をしていない件数の3つで出る
- 顧客情報を1ヶ所に集め、「次のアクション予定日」を必ず埋める。追客の仕組み化はこの1列から始まる
- CRMは機能ではなく、現場の1日の動きと合うかで選ぶ。契約前に反響1件を実機で最後まで通す
たとえば月40件の反響があり、来店8件、成約2件だったとする。これは説明用の仮定だが、残りの38件はどうなったのか?「検討中のまま放置」「連絡先がわからなくなった」「忙しくてフォローできなかった」。こうした理由で、広告費をかけて獲得した見込み客の大半が消えていく。問題は営業力ではなく、追客の「仕組み」がないこと。この記事では、ITに詳しいスタッフがいなくても始められる追客の仕組み化を解説する。
先に、自社の放置率を数える
追客が止まっている割合は、自社の記録で確かめる。たとえば直近3ヶ月の反響を対象に、次の3つを数える。30日という期間は点検の仮の基準なので、顧客と約束した連絡日や検討時期に合わせて調整する。
① 反響の総数 — ポータル・自社HP・電話・紹介をすべて足す。ここを集められない時点で、追客以前に受け皿がない
② 最終接触から30日以上経っている件数 — 失注にも成約にもなっていないのに止まっている顧客
③ 2回目の連絡を一度もしていない件数 — 初回対応だけで終わった顧客
②と③はそれぞれ①で割り、長期未接触の割合と初回対応のみの割合を別々に確認する。重複する顧客がいるため②と③を単純に足さない。連絡不要と合意した顧客や次回連絡日を約束済みの顧客も区別する。この3つが数えられない(=どこにも記録がない)なら、放置率の議論より先に、次章の「顧客情報を1ヶ所に集める」から着手する。
※ この記事は「不動産売買仲介の業務効率化ロードマップ」のStep 4を詳しく解説したものです。
追客できていない本当の理由
理由1:顧客情報が5ヶ所に散らばっている
名刺はデスクの引き出し。メモは手帳。メールは個人の受信箱。LINEの履歴はスマホ。物件の希望条件は走り書きのメモ。1人のお客様の情報が5ヶ所に分散していると、「あの人に最後にいつ連絡したっけ?」「希望条件は何だったっけ?」が分からなくなる。結果、連絡する気がなくなり、放置される。
理由2:「いつ連絡すべきか」が決まっていない
初回の反響対応はできても、その後のフォロータイミングが決まっていない。「そのうち連絡しよう」と思っているうちに1ヶ月、2ヶ月が経つ。不動産の購入検討期間は平均3〜6ヶ月。この間に定期的にフォローしなければ、お客様は他社で成約してしまう。
理由3:追客が「営業個人の頑張り」に依存している
マメな営業担当は追客して成約する。忙しい営業担当は追客が後回しになる。追客が個人のモチベーションや性格に依存していると、会社全体の成約率が安定しない。仕組みがないと「頑張る人だけが結果を出す」という属人的な構造が固定化する。
追客の仕組み化 3ステップ
ステップ1:顧客情報を1ヶ所に集める
まずはGoogleスプレッドシートで十分。1シートに全顧客の情報を入れる。ツール選びで迷って何も始めないより、スプレッドシートで今日から始めたほうが早い。
顧客管理シートの必須項目
A列: お客様名
B列: 電話番号
C列: メールアドレス / LINE
D列: 問い合わせ日
E列: 反響元(SUUMO / アットホーム / 自社HP / 紹介)
F列: 希望エリア
G列: 予算
H列: 間取り・広さの希望
I列: 入居希望時期
J列: ステータス(新規 / 内見済 / 検討中 / 成約 / 失注)
K列: 最終対応日
L列: 次のアクション予定日
M列: 担当者
N列: メモ(対応履歴)
ポイントは「L列:次のアクション予定日」。これが追客の仕組み化の核になる。毎朝このシートを開いて、今日がアクション予定日のお客様に連絡する。これだけで「連絡忘れ」がなくなる。
ステップ2:追客のルールを決める
「いつ・誰に・何を連絡するか」のルールを決めておく。これがないと、追客は結局「気が向いたときにやる」に戻ってしまう。
追客ルールの例
反響当日
自動返信 → 30分以内に電話 → 電話に出なければSMS/LINE送信
3日後
希望条件に合う物件を2〜3件メールで紹介
1週間後
電話でご検討状況を確認。内見の提案
2週間後
新着物件情報をメールで送付
1ヶ月後
「その後いかがでしょうか?」メール。エリアの相場情報を添付
2ヶ月後
住宅ローン金利の最新情報を共有
3ヶ月後以降
月1回、新着物件+市況レポートを送付(自動化推奨)
最初の1〜2週間は「売り込み」ではなく「情報提供」に徹するのがコツ。お客様が「この営業担当は役に立つ情報をくれる」と感じたら、検討が進んだタイミングで真っ先に連絡してくれるようになる。
ステップ3:顧客が増えたらCRMに移行する
移行の判断を件数で決めようとすると、会社によって適正な件数が違うので当たらない。顧客数の目安より、次の症状が出たかどうかで判断するほうが確実に決まる。
スプレッドシートの限界を示す3つの症状
症状1: 毎朝のフィルタ操作そのものが仕事になっている(開いてから今日の対象を出すまでに数分かかる)
症状2: 同じお客様の行が2つ以上ある。どちらが最新か分からない行がある
症状3: 担当者が自分用のコピーを持ち始めた。共有シートに入力しない人が出てきた
症状3が出たら移行を先送りしない。この状態を放置すると、後述の「二重台帳」がそのまま常態化する。
中小不動産会社に向いているCRMツール
HubSpot CRM(無料)
顧客管理・メール履歴・タスク管理が無料で使える。日本語対応済み。スプレッドシートからのデータインポートも簡単。まず無料で試して、必要に応じて有料プラン(月5,400円〜)に移行できる。
いえらぶCLOUD(月額制)
不動産業務に特化したCRM。物件管理・ポータル出稿・顧客管理が一体化。不動産仲介の業務フローに最初から合わせて作られているので、カスタマイズ不要で使い始められる。
kintone(ライトコース月額1,000円/スタンダードコース月額1,800円、1ユーザーあたり税抜・最小10ユーザー)
ノーコードで自社用の顧客管理アプリを作れる。不動産業界のテンプレートも多数あり、ITに詳しくなくてもカスタマイズが可能。
仕組み化の前後でどう変わるか(試算)
次の表は「月40件の反響がある売買仲介」を前提に置いた試算で、業界平均でも当社の集計値でもない。前提が変われば数字は変わる。使い方は、上で数えた自社の放置率と成約率を左列に入れ、右列に「連絡漏れを0件にしたら何件増えるか」を自社の数字で入れ直すこと。
| 指標 | 仕組み化前 | 仕組み化後 |
|---|---|---|
| 追客している顧客の割合 | 20〜30% | 100% |
| 追客からの成約率 | 2〜3% | 5〜7% |
| 追客にかかる時間/月 | 不定(属人的) | 月10時間(ルーティン化) |
| 連絡漏れ | 月10〜15件 | 0件 |
| 成約数の変化(月40件反響の場合) | 月1件 | 月2〜3件 |
費用対効果は、自社の成約1件あたりの粗利で計算する。説明用に追加成約1件あたりの粗利を30万円、毎月の追加成約を1件と仮定すると、12ヶ月の追加粗利は360万円になる。ここからCRM利用料・設定費・追客に増やす人件費などの追加コストを差し引く。30万円も月1件も実績や改善予測ではなく、自社の実測値に置き換えるための計算例である。
出典・一次情報
- 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号)/国土交通省
- kintone 料金プラン(サイボウズ) — 記事中のkintone価格は2026年8月12日に本ページで確認
制度・統計は改定されます。最新の情報は公表元でご確認ください。
CRMに移行したら:自動追客の設計
スプレッドシートから次のステップに進むなら、「CRM(顧客管理)」「ステップ配信(メール/LINE)」「アラート通知」の3つを組み合わせる。それぞれ単体で導入しても効果は薄い。3つがつながって初めて「フォロー漏れゼロ」の追客体制ができる。
特に効果が大きいのがアラート通知。自動配信したメールを開封した、LINEのリンクをクリックした、自社サイトの物件ページを閲覧した—こうした行動をトリガーにして、担当者にリアルタイムで通知を飛ばす。「3日前に送った物件メールを、今さっき開封して物件ページを3件見ている」。この状態で電話をかける利点は2つある。相手が不動産のことを考えている時間帯に当たること、そして「先ほどご覧いただいた物件の件で」と、電話をかける理由が具体的にあること。何倍つながるかを示せる自社の実測値は持っていないので、倍率は書かない。導入したら、通知経由の架電と通常の架電で接続率を分けて記録しておくと、次の判断材料になる。
温度感スコアも自動で更新する。メール開封で+1点、リンククリックで+3点、物件ページ閲覧で+5点、返信で+10点。スコアが一定以上になったら「ホットリード」として担当者に即時通知。追客の優先順位が自動的に決まる。
追客自動化のツール構成例
構成A:低コスト型(月2〜5万円)
HubSpot無料版 + LINE公式アカウント + Lステップ。月反響50件以下の小規模仲介会社向け。
構成B:不動産特化型(月5〜15万円)
いえらぶCLOUD or Digima。ポータルサイト連携が充実、反響の自動取り込みから物件提案までワンストップ。
CRMを入れても使われない:原因 → 確認 → 直す
「CRMを入れたが、半年で誰も開かなくなった」「結局スプレッドシートに戻った」。この相談は珍しくない。原因はツールの機能不足であることが少なく、たいていは現場の1日の動きと運用の決め方が合っていない。原因は大きく4つに分かれ、どれも契約前に実機で確認できる。デモ画面を見せてもらうのではなく、自社の入力形式を再現した架空データで触らせてもらうのが要点になる。
| 原因 | 現場に出るサイン | 契約前に実機で確かめること | 先に決めておくこと |
|---|---|---|---|
| 手入力が残っている | ポータルの反響メールを見ながら、CRMに名前と連絡先を打ち直している | 自社が実際に使っている反響元を1件ずつ(ポータル・自社HPのフォーム・電話・紹介)取り込ませてもらう | 自動で取り込めない反響元は、誰が・その日の何時までに入れるか |
| スマホで完結しない | 内見の帰りに紙やメモアプリに書き、事務所に戻ってから入力する(そして入力しない日が出る) | 営業担当のスマホで「対応履歴の追記」「次のアクション予定日の変更」「顧客の検索」の3つをやってみる | スマホでやる操作を3つに絞り、それ以外はPCと決める |
| 連絡履歴が会社に残らない | 担当が休むと、どこまで話したか誰も答えられない。個人の携帯・個人LINEでやり取りしている | 個人チャネルで取った連絡を、CRM側の履歴として残す手順を1件通す | 会社として使う連絡手段と、やむを得ず個人チャネルを使ったときの記録ルール |
| 導入後に設定を直す人がいない | 項目が現場と合わないまま放置され、いつの間にかExcelの台帳が復活している | 項目の追加・帳票の変更を、誰が・どのくらいの期間で・追加費用がいくらでやるのかを契約前に聞く | 社内の責任者を1人置き、月1回の見直し日をカレンダーに入れる |
導入前に、反響1件を最後まで通す
機能一覧の○×では、使われるかどうかは判断できない。自社の反響形式を再現した架空データ1件で、最初から最後まで通してみる。順番はこうなる。
操作テストの5工程
1. 自社が使っている反響元から、反響が1件入る
2. 顧客として登録される(名前・連絡先の打ち直しが発生しないか)
3. 初回の連絡をして、対応履歴を残す(このときスマホで操作する)
4. 次のアクション予定日を入れ、翌朝の一覧に出ることを確認する
5. 責任者が、自分の画面でその顧客の状況を確認できる
この5工程を通すことで、基本操作でつまずく箇所を事前に確認できる。実際の定着には導入後の運用確認も必要になる。止まった箇所が、そのまま運用ルールを決めるべき箇所になる。営業担当を1人、必ず同席させる。決裁者だけで見ると、毎日触る人が引っかかる場所を見落とす。
二重台帳を残さない
移行で最も多い失敗は、CRMとスプレッドシートの両方が生き続けること。両方あると「どちらが正しいのか」が分からなくなり、最終的にどちらも信用されなくなる。二重台帳は放っておくと消えないので、期限のほうを先に決める。
二重台帳を終わらせる3つの決め事
期限を先に決める: 並行運用は日付で切る(例:移行日から2週間)。「落ち着いたら」で決めると終わらない
旧台帳を参照専用にする: 期限を過ぎたシートは編集権限を外し、ファイル名の先頭に「参照専用_日付」を付ける。開いた人が一目で分かる状態にする
移さないデータを決める: 全件移そうとすると移行が終わらない。この記事のFAQで触れているとおり、最終接触から3ヶ月以上前の反響のように、移さない線を先に引く
例外は「決める人」を先に決める
運用ルールを作ると、必ず例外が出る。電話番号しか分からない反響。2人の担当が同じお客様を持っている。反響元が特定できない。同じ人が別のメールアドレスで2回問い合わせてきた。こうしたケースにルールを1つずつ足していくと、ルールが覚えきれなくなって全体が守られなくなる。
例外は、その場で判断する人を1人決めておくほうが回る。判断した内容は 月1回まとめて見直し、繰り返し出るものだけをルールに昇格させる。責任者を決めていない状態で運用を始めると、例外が出るたびに担当者ごとの独自ルールが増え、結局「自分のシートで管理する」に戻る。
よくある失敗パターン
失敗1:自動配信がテンプレすぎて無視される
対策は、問い合わせ内容を反映したパーソナライズ。「◯◯エリアで3LDK・4,000万円台をお探しとのこと。近日公開予定の物件があります」のように、CRMの差し込み変数で自動配信でもパーソナライズは可能。
失敗2:ツールを入れたが営業が使わない
対策の入口は上の「原因 → 確認 → 直す」の表のとおりだが、定着の面でもう1つ効くのが通知の向きを変えること。SlackやLINEなど営業が普段開いているツールに通知を飛ばし、CRMを開かなくても重要な情報が届くようにする。「CRMを見に行く」ではなく「情報が営業のところに来る」設計にしないと、忙しい日にまず開かれなくなる。
よくある質問
Q. スプレッドシートとCRM、どっちから始めるべき?
まずスプレッドシートから始める。理由は2つ。1つ目は、追客の「型」がないままCRMを導入しても、ツールに振り回されるだけだから。まずスプレッドシートで「どの項目を管理すべきか」「どのタイミングで連絡すべきか」を試行錯誤して固める。2つ目は、CRMのツール選定に時間をかけている間に、目の前の見込み客が離れていくから。今日スプレッドシートを作れば、明日から追客が始められる。
Q. 既存のお客様のデータも入力すべき?
過去3ヶ月以内に反響があったお客様だけ入力する。それより古い反響は、改めてフォローしても成約率が低い。まずは「今後入ってくる反響」をもれなく管理する仕組みを作り、余裕ができたら過去分を遡る。
Q. 営業担当が入力を面倒がるのでは?
これは最大の懸念であり、対策は「入力項目を最小限にする」こと。上で示した14項目のうち、反響時点で入力するのは名前・連絡先・反響元・ステータスの4項目だけ。希望条件や対応履歴は、電話や内見の後に追記すればいい。1回の入力を2分以内に収めるのがコツ。
まとめ:追客は「仕組み」で解決する
追客ができていない原因は、営業担当の意欲の問題ではなく、仕組みの問題。顧客情報が1ヶ所にあり、次のアクション予定日が決まっていれば、追客は「毎朝シートを開いて、今日のタスクをやるだけ」のルーティンになる。スプレッドシート1枚から始められるので、今日から着手できる。月40件の反響から成約を1件→2〜3件に増やすだけで、年間1,200万円以上の売上インパクト。広告費を増やすより、今ある反響を確実に追客するほうが、はるかに費用対効果が高い。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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