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AI活用

カスタムAIソリューションの導入事例|公開3社の対象業務と、作る前に決めること

既製のAIでは扱えなかった業務を、1つに絞って作っている

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執筆:泉 款太(株式会社SalesDock 代表取締役)累計40社以上の中小企業を支援

カスタムAIソリューションの導入事例|公開3社の対象業務と、作る前に決めること

結論

カスタムAIソリューションの導入事例は、汎用のAIツールでは扱えない自社固有のデータがある1業務から始まっています。この記事では、公的資料と企業の公式発表で確認できる3社の取り組みを、対象業務・AIに任せた範囲・人が残した確認・公表された成果に分けて整理します。

  • 公開されている事例は、図面・社内台帳・資材のように、その会社にしかないデータを扱う業務を対象にしています。
  • パナソニック コネクトの照合AIは、図面からの抜き出しと突き合わせまでをAIが行い、最後の確認は担当者が行っています。
  • パナソニック コネクトは成果を「1件50〜340分が10分に」と、導入前と同じ数え方で示しています。後藤組の数字はDXの取り組み全体のものです。
  • 岡田研磨はAIを組み込んだ仕組みではなく、AIを使って自社システムを内製した事例として読み分けます。
  • 自社で作るかどうかは、既製品で大部分が回るか、自社データが要るか、確認者を置けるかの3点で決めます。

「自社専用のAIを作った会社は、何を作って、どれくらい効いたのか」。カスタムAIを検討し始めると、まずこれが知りたくなります。ただ、ベンダーの紹介記事には成果の数字だけが並び、どの業務のどの作業をAIに渡したのかが書かれていないことが多いです。

この記事は、自社向けに作ったAI(カスタムAI)の導入事例を扱います。ChatGPTなど既製の生成AIを業務で使う事例は中小企業の生成AI活用事例、開発を外注するときの費用はAI開発の外注費用にまとめています。

カスタムAIソリューションとは:既製のAIツールとの違い

カスタムAIソリューションは、自社の業務とデータに合わせて作るAIの仕組みです。既製のAIツールとの違いは、AIが何を読んで答えるかにあります。汎用のAIチャットは、入力した文章と一般的な知識から答えます。既製のAI付き業務ツールは、そのツールに入れたデータの範囲で動きます。カスタムAIは、自社の図面や手順書、台帳のように、外のツールが知らないデータを読ませて、特定の業務の流れに組み込みます。

汎用のAIチャット読むもの入力した文章向く業務要約・翻訳・下書き既製のAI付きツール読むものツールに入れたデータ向く業務問い合わせ・会計など型が決まった業務カスタムAI読むもの自社の図面・手順書向く業務照合・社内情報の検索自社だけの判断右へ行くほど、作る手間と保守が増える
違いは「AIが何を読んで答えるか」です。自社固有のデータを読ませる必要がなければ、作らずに既製品で足ります。

右へ行くほど業務に合わせられる反面、作る手間と、作ったあとの保守が増えます。カスタムAIは「AIの中身を自社で作る」ことではありません。パナソニック コネクトの事例では、AIのモデル自体はSnowflake社の基盤のAI機能(Cortex AI)を使い、図面の読み込みと照合結果の表示を自社用に作っています。

公開されている導入事例3つ

ここで取り上げるのは、公的資料か企業の公式発表で中身を確認できた事例だけです。成果の数字は各社の公表値をそのまま載せ、こちらで推計を足していません。

岡田研磨:生成AIとの対話で、社内の情報統合システムを内製した

石川県金沢市の岡田研磨株式会社は、建設機械や産業機械向け部品の加工・組立てを手がける従業員85名の会社です。2026年版中小企業白書の事例2-2-14によると、図面などの膨大な情報は紙とExcelで管理され、情報が属人化し、社内共有にも無駄な作業が出ていました。

岡田専務は生成AIでプログラムを作れることを知り、AIとの対話を通じて自社独自の情報統合管理システム「OKADA Board」を開発しました。生産管理・労務管理・原価管理をはじめ30以上のアプリが載り、情報を一元管理できるようになっています。さらに作業手順書の管理システムも作り、それを使った従業員教育で多能工化と業務の平準化が進みました。白書は結果として、労働時間の削減と売上高の増加につながったとしています。

岡田研磨は、AIを業務の仕組みに組み込んだ事例ではなく、AIを使って自社システムを内製した事例です。白書の記述では、AIが担ったのはプログラムを書く部分で、出来上がったOKADA BoardがAIで動くとは書かれていません。カスタムAIソリューションそのものの事例ではありませんが、外部の開発会社に頼まず、業務を一番知っている人がAIを相手に自社専用の道具を作れることを示しています。

後藤組:現場社員がアプリを作り、資材管理にAIを使った

山形県米沢市の総合建設会社・後藤組は、経済産業省の「DXセレクション2025」でグランプリに選ばれた会社です。同社の公式サイトによると、取り組みは2019年頃に社長方針で始まり、基本テーマを「全員DX」としています。アプリの構築はすべて現場社員自身が行い、年に一度の社内大会で全社員が何か1つアプリを作って発表します。

その中で、AIを使った資材管理システムを構築し、経理・勤怠のシステムも内製化しました。DXの取り組み全体として、現場事務所の書類は約60%減り、残業時間は取り組み前から1人あたり20%以上減ったと公表しています。この数字はAIだけの効果ではなく、ペーパーレス化を含めた取り組み全体の結果です。

後藤組の事例で目を引くのは、AIを「特別な仕組み」として扱っていないことです。現場の人が自分の業務アプリを作る文化が先にあり、資材管理という具体的な業務にAIが加わっています。

パナソニック コネクト:図面と仕様書の照合だけを、AIエージェントに任せた

大企業の事例ですが、対象業務の絞り方が中小企業にもそのまま参考になるため取り上げます。パナソニック コネクトは2026年2月19日、設計・開発部門の図面と設計仕様の照合業務に、内製の「Manufacturing AIエージェント」を展開したと発表しました。

製品図面・部品図面・技術仕様書の記載が一致しているかを確かめる照合は、それまで担当者の目視に頼っていました。確認漏れは後工程の手戻りや検査のやり直しにつながります。照合対象がPDFの図面だったため、既存のソリューションでは解決できなかったと同社は説明しています。作ったAIエージェントは、複数のPDF図面から文字情報を抜き出し、材質や仕上げなどの項目を自動で突き合わせ、結果を一覧で表示します。担当者はその一覧を見て確認を終えます。

同社の発表では、目視で50〜340分かかっていた照合が10分に短縮されました(80〜97%の削減)。まずは規格の照合と外装部品の照合から適用し、ほかの照合業務へ広げる計画です。同社は2023年2月から、国内の全社員(約11,600人)向けに自社専用のAIアシスタント「ConnectAI」を運用しており、2024年の業務時間削減は年間44.8万時間と公表しています。汎用のAIアシスタントで社員が使い慣れたあとに、効果の大きい1業務へ専用のAIを作る順番になっています。

会社対象にした業務・データAIに任せたこと人が残したこと公表された成果
岡田研磨(製造・85名)紙・Excelに散っていた図面や生産・労務・原価の情報生成AIとの対話でプログラムを書き、情報統合管理システムを内製作業手順書の管理システムを使った従業員教育(多能工化・業務平準化)30以上のアプリを搭載。労働時間の削減と売上高の増加
後藤組(建設・山形県)現場事務所の書類、資材管理、顧客・採用情報AIを使った資材管理システムを構築アプリは現場社員自身が作り、年1回の社内大会で発表DX全体で書類約60%減、1人あたり残業20%以上減
パナソニック コネクト(製造・B2B)PDF図面と設計仕様書の照合(材質・仕上げなど)図面から文字を抜き出し、項目を突き合わせて一覧にするAIが出した一覧を担当者が確認して照合を完了する1件50〜340分の照合が10分に(80〜97%減)

出典:2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要(中小企業庁)、後藤組公式サイト、パナソニック コネクトのプレスリリース。後藤組の成果はDXの取り組み全体の数字です。

3社に共通していた進め方

業種も規模も違う3社ですが、どれも「どの業務の、どのデータが散っているか」を特定するところから始めています。AIの役割は事例ごとに違います。パナソニック コネクトの照合AIは、図面からの抜き出しと突き合わせまでをAIが行い、最後の確認は担当者が行っています。後藤組はAIを資材管理に使ったと公表していますが、AIに任せた範囲までは公表していません。岡田研磨でAIが担ったのは、システムのプログラムを書く部分です。下の図は、確認の分担まで公表されているパナソニック コネクトの進め方をもとにした手順です。

1. 業務を1つ選ぶ例:図面と仕様書の照合2. 散ったデータを集める紙・Excel・PDFを1か所に3. AIは抜き出しと照合まで結果は一覧で人に渡す4. 人が確認して数字を取る1件の時間・見落とし件数効果が確かめられたら、次の業務へ広げる
AIに渡すのは3番目だけです。1と2が決まっていないと、何を作ればよいかが定まりません。

カスタムAIを作る前に見落とされやすいのが、紙・Excel・PDFに散ったデータを1か所に集める工程です。岡田研磨は紙とExcelに散っていた情報をまとめるところから始め、パナソニック コネクトも社内のデータを1つの基盤に集める取り組みの一部として照合AIを作っています。データが散ったままでは、AIに何を読ませるかが決まりません。データの整え方はデータ整備の進め方で手順にしています。

自社でカスタムAIを作るべきかの判断

事例を読むと自社でも作りたくなりますが、多くの業務は既製品で足ります。作るかどうかは、次の3つの問いで分けます。

既製のAIツールで回る?はい既製品をそのまま使ういいえ自社だけのデータが要る?いいえツールの設定を見直すはい月に何度も発生し、確認者を置ける?いいえ今は作らないカスタムAIを1業務で試作する
3つすべてに当てはまる業務だけが、作る候補です。1つでも外れるなら、既製品か設定の見直しで済みます。

カスタムAIを作るかどうかは、対象業務が月に何度も発生し、AIの出力を確認する担当者を置けるかで判断します。年に数回しか発生しない業務では、作る費用を回収できません。確認者を置けない業務では、AIの誤りがそのまま社外に出ます。パナソニック コネクトの照合AIも、一覧を見て確認を終えるのは担当者です。

SalesDockの支援の現場から

SalesDockが支援先と一緒に業務を棚卸しすると、「AIで作りたい」と挙がった業務の多くは、既製ツールの設定か、スプレッドシートの持ち方を変えるだけで片付きます。自社のデータを読ませないと答えが出ない業務は、たいてい1つか2つに絞られます。社内の業務でAIをどう回しているかはClaude Codeの活用事例に書いています。

作る前に決めることと、最初に測る数字

作る前に決めること

まず、対象業務の入力と出力を1枚に書きます。何を見て(図面、台帳、過去の見積もり)、何を作るのか(照合結果の一覧、下書き、検索結果)。次に、AIの出力を誰が確認し、間違っていたらどこへ戻すかを決めます。最後に、そのデータを社外のAIサービスに渡してよいかを社内ルールで確かめます。顧客情報や図面を扱う場合は、ここで止まることが多いので早めに確認します。社内ルールの作り方は生成AIの社内ルールの作り方で扱っています。

内製か外注か

岡田研磨と後藤組は、業務を知る社内の人が自分で作りました。パナソニック コネクトも内製です。業務の中身を一番知っている人が作り手に近いほど、現場で使われる道具になりやすいのは確かです。一方で、社内に作り手がいない場合は外部に頼むことになります。そのときも、対象業務の入力と出力、AIの出力を確認する担当者、社外のAIサービスに渡してよいデータの範囲を自社で決めてから見積もりを取ると、費用のぶれが小さくなります。費用の内訳はAI開発を外注すると費用はどう決まるか、相場の幅はAI導入費用の相場にまとめています。

最初に測る数字

作り始める前に、対象業務を5〜10件、いつもどおりに処理して記録します。測るのは、1件あたりの作業時間、確認と手直しにかかった時間、見落としや差し戻しの件数の3つです。導入後も同じ数え方で記録し、AIが作る時間ではなく、人が確認し終えるまでの時間で比べます。パナソニック コネクトが「50〜340分が10分に」と示せたのは、導入前の1件あたりの時間を持っていたからです。測り方の詳細はAI導入の効果測定を参照してください。

試作がうまく動いても、そのまま本番に載せる前に確かめることがあります。データの保存先、誤った出力が出たときの戻し方、作った人が不在でも直せるかの3点です。確認項目はAIで作った社内ツールの本番導入前チェックリストに並べています。

よくある質問

カスタムAIソリューションとは何ですか?

自社の業務とデータに合わせて作るAIの仕組みのことです。汎用のAIチャットや既製のAI付きツールをそのまま使うのではなく、自社の図面・手順書・台帳などを読み込ませ、特定の業務の流れに組み込みます。公開事例では、図面照合や社内情報の一元管理のように、既製品では扱えないデータを対象にしたものが目立ちます。

中小企業でもカスタムAIを導入した事例はありますか?

あります。山形県の建設会社・後藤組は、現場社員が業務アプリを作る取り組みの中で、AIを使った資材管理システムを構築したと公表しています。また、2026年版中小企業白書の概要では、従業員85名の岡田研磨株式会社が生成AIとの対話でプログラムを作り、自社独自の情報統合管理システムを開発した事例が紹介されています。こちらはAIを組み込んだ仕組みではなく、AIを使って自社システムを内製した事例です。

既製のAIツールとカスタムAI、どちらを選べばよいですか?

先に既製品で試します。既製のAIツールで業務の大部分が回るなら、作る必要はありません。自社だけが持つデータ(図面、手順書、過去の見積もりなど)を読ませないと答えが出ず、その業務が月に何度も発生し、結果を確認する担当者を決められる場合に、カスタムAIを1業務で試作する価値が出てきます。

カスタムAIの効果は何で測ればよいですか?

作る前に、対象業務の1件あたりの時間、確認と修正にかかる時間、見落としや差し戻しの件数を記録しておきます。導入後も同じ数え方で比べます。パナソニック コネクトの事例のように、1件あたりの作業時間を導入前後で並べられると、続けるか止めるかを判断しやすくなります。

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泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。

運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。

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この記事の数値について

本文中に一次資料へのリンクがある数値は、リンク先を出典としています。 リンクのない業務設計、判断基準、実務上の目安は、SalesDockが累計40社以上の支援と自社運用で得た知見を一般化したものです。 個別企業での成果を保証する数値ではなく、条件によって変わります。

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