AI活用入門 · · 最終更新 · 9分で読める
マルチAIエージェントとは?商談準備を分担する設計例と、単体で足りる業務の見分け方
結論:マルチAIエージェントは、独立した調査を分担するときに検討します
マルチAIエージェントは、複数のAIエージェントが作業を分担し、結果を受け渡して目的に向かう仕組みです。商談準備なら企業情報と社内履歴を別々に調べる構成が考えられますが、分担による利点が統合の手間を上回るかを確かめる必要があります。
- 単体のAIエージェントでも複数の手順を進められるため、工程の数だけで分ける必要はありません。
- 分担する場合は、担当範囲と根拠の受け渡し方を決め、食い違いを人が確認できる形で残します。
- 単体と同じ資料・質問で比べ、人の修正時間や利用量まで含めて採用を判断します。
営業担当が集めた企業情報、前回の商談メモ、自社で提供できる範囲。これらを突き合わせる作業が営業責任者に集中していると、資料を増やすだけでは準備が終わりません。本記事では、公表された調査システムと、検討用の架空の商談準備を分けて紹介します。
AI導入全体の順番は中小企業のAI導入 完全ガイドで整理しています。ここでは、ひとつの業務を複数の担当に分けるべきかに絞ります。
マルチAIエージェントは、どのように協力するのですか?
たとえば、調査方針を決める主担当が、別々の問いを調査担当へ渡します。各担当は許可された資料やツールを使って調べ、根拠付きの結果を返します。主担当は結果をまとめ、足りない情報があれば追加調査を依頼します。
一方、あらかじめ決めた順番で検索、要約、整形を流すだけなら、固定したワークフローとして作れます。Anthropicも、決められた経路に沿うワークフローと、AIが手順やツールの使い方を選ぶエージェントを区別しています。出典:Anthropic「Building effective agents」
「調査係」「作成係」と名前を付けるだけで、自律的な分担になるわけではありません。どこで次の作業を選ぶのかを確認します。生成AI全体との関係は、AIエージェントと生成AIの違いも参考になります。
公表実例:AnthropicのResearchは調査を分けて統合します
Anthropicが2025年6月13日に公表したResearchの構成では、主担当が調査を計画し、複数の担当へ異なる観点を割り当てます。各担当の結果を統合した後、引用箇所を確認する担当へ渡します。同社は、依頼範囲が曖昧だと調査が重複することも説明しています。出典:Anthropic「How we built our multi-agent research system」
これは同社の調査サービスの公表実例です。SalesDockの導入実績や、中小企業の営業成果を示すものではありません。以下の商談準備は、この分担の考え方を参考にした架空の設計例で、実際の顧客情報や稼働結果は使っていません。
架空例:商談準備の担当を分け、面談で聞くことをまとめます
法人向けサービス会社が、次回の面談で報告業務の困り事を聞く場面を考えます。完成させるものは、提案書ではなく「確認できた事実・食い違い・未確認・面談で聞くこと」を並べた準備メモです。価格や受注確度は、この作業で決めません。
企業情報と社内履歴は、異なる資料から調べます
企業情報担当は、許可された企業概要資料から事業や拠点を確認します。社内履歴担当は、前回メモから相手が話した困り事と未回答の質問を拾います。両者へ同じ「この会社を調べて」という依頼を渡すと、担当を分けた意味が薄れるため、答える問いを分けます。
統合担当には自社の提供範囲も渡し、面談で確認したいことを整理させます。ただし、資料にない要望を顧客の発言として補ったり、提供できない支援を約束したりする権限は与えません。顧客への送信やCRMの確定情報更新は、ここには含めません。
たとえば企業情報担当が、拠点数について資料間の食い違いを見つけた場合は、許可された資料の範囲から対象日が分かるページを探し直します。見つからなければ未確認として返し、統合担当が面談の質問に残します。決まった資料を一度要約するだけの処理と、状況に応じて次の調査を選ぶ処理を、このように分けて設計します。
食い違いは、どちらかを正解にせず返します
架空の企業概要には「本部で集計」、前回メモには「拠点ごとに報告」とあったとします。これは矛盾とは限りません。拠点が報告し、本部が集計している可能性もあります。統合担当は両方の記述と資料の版を残し、「拠点の報告を誰が本部でまとめていますか」と確認事項へ変えます。
新しい資料だから正しいと即断せず、対象部署や業務が同じかも見ます。未確認をもっともらしい説明で埋めるより、次の面談で確かめられる問いにすることが、この準備メモの役割です。
担当間では、結論と一緒に根拠・未確認・終了条件を渡します
受け渡しを自由文だけにすると、要約の過程で出典や留保が落ちても気づきにくくなります。次の表は、上の架空例で社内履歴担当が返す項目です。そのまま使える商談システムではなく、自社で必要な項目を決めるための見本です。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 案件と問い | 架空案件 S-01/次の面談で、報告業務の何を確認するか |
| 担当範囲 | 社内履歴のみ。企業の公開情報は別担当へ返す |
| 資料と版 | M-01 前回メモ・確認用の版/該当欄『現在の報告方法』 |
| 根拠のある記述 | メモには『拠点ごとに報告』とある。全社共通の運用とは確認できない |
| 未確認 | 集計担当、報告の頻度、拠点間の違い |
| 終了・差し戻し条件 | 指定資料を確認したら終了。資料を開けない場合は、その理由を返す |
根拠の箇所まで戻れない記述は、確認済み事実に入れません。資料を開けない担当が推測で回答した場合は差し戻します。調査担当どうしが同じ結論でも、同じ古い資料を参照しているかもしれないため、人が原文を照合する工程を残します。
単体・固定ワークフロー・マルチをどう選びますか?
材料がひとまとまりで、ひとつの担当が文脈を追えるなら、まず単体を比較対象にします。単体でも検索を繰り返し、複数の資料を突き合わせられます。件数や工程が増えたことだけを理由に、担当を増やす必要はありません。
毎回同じ欄を読み、同じ順番で処理すればよい場合は、固定ワークフローが候補です。資料ごとに確認する観点が変わり、独立に調べた結果を合わせる必要がある場合に、マルチ構成を検討します。
この商談例でも、前回メモを読まなければ企業情報の調べ方が決まらないなら、最初から並列に動かす理由は弱くなります。全担当へ同じ長い資料を渡し、最後に読み直すだけになっていないかも確認します。
試すときは、人が使える準備メモになるまでを比べます
来週試すなら、まず上のような架空資料を用意し、同じ質問を単体とマルチへ渡します。会社で利用を認めた環境を使い、実際の顧客情報は持ち込まずに始めます。比較する前に、人が期待する事実と、未確認で残すべき項目を書いておきます。
- 必要な項目の欠落と、根拠にない記述を数えます。文章の読みやすさだけでは判定しません。
- 資料の準備、出力の確認、修正までに人が使った時間を記録します。AIの処理時間とは分けます。
- 総処理時間とツール・モデルの利用量を残します。追加調査や再試行も含めます。
- 資料欠落、古い版の混在、内容の食い違いがある場合も試し、止まるか、未確認を返せるかを確かめます。
一度うまくいっただけでは、別の案件でも使えるとは判断できません。同じ条件で繰り返し、単体より確認の負担が増えるなら、役割を減らすか受け渡しを見直します。本記事の架空例ではAIを実稼働させた比較を行っておらず、削減時間や費用の改善率は示していません。
マルチAIエージェントのよくある質問
マルチAIエージェントは何体から始めればよいですか?
一律の適正数はありません。独立して調べる必要のある範囲だけを分けます。この記事の架空例は企業情報と社内履歴を分けていますが、材料をまとめて確認できるなら単体で足ります。役割を増やす前に、分担で何を改善したいかを決めます。
同じAIモデルを複数の担当に使ってもよいですか?
使えます。担当ごとに目的、参照できる資料、作業の状態を分けることと、別のモデルを使うことは別の判断です。ただし同じ答えが複数返っても正しさの証明にはなりません。元資料と照合して確かめます。
決まった順番でAIに文章を作らせるだけでもマルチエージェントですか?
呼び方には幅がありますが、この記事では固定した順番で処理する構成をワークフローとして区別しています。複数のAIが目的に応じて調べ方や次の作業を選び、結果を受け渡す構成をマルチAIエージェントとして扱います。製品名より、どこをAIが判断するかを確認すると比較しやすくなります。
社内資料をすべての担当に渡す必要がありますか?
ありません。企業情報を調べる担当に、契約条件や個人情報まで渡す必要があるかを分けて考えます。参照範囲の制限は指示文だけに任せず、接続先の権限で制御します。統合する担当にも、確認に必要な情報だけを渡します。
担当を増やす前に、受け渡す情報をそろえたい方へ
SalesDockでは、現場の業務、データ、システムのつなぎ目を整理し、実装と運用定着を支援しています。自社で検討する際は、まず現在の準備メモで「出典が分からない欄」「毎回責任者に聞く欄」を確かめると、相談したいことを整理できます。
資料「業務設計の検討例」では、月次資料の確認と書式合わせという別業務の架空例で、未確認を残す方法と人の照合を練習できます。全10ページ、任意25分の実践付きです。マルチAIの実装教材や商談テンプレートではありません。
自社の商談準備について、分担する範囲や確認責任を一緒に整理したい場合は、無料相談を申し込む(60分)。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI内製化(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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本文中に一次資料へのリンクがある数値は、リンク先を出典としています。 リンクのない業務設計、判断基準、実務上の目安は、SalesDockが累計40社以上の支援と自社運用で得た知見を一般化したものです。 個別企業での成果を保証する数値ではなく、条件によって変わります。